6話 ページ8
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「まだ寝ているのかい!」
ペチュニアおばさんの甲高い声が階段下の物置まで響き渡って、僕は目を覚ました。
足を伸ばして寝ることもできない程の広さの物置部屋。ここが僕の部屋だ。起き上がろうと体を動かすと天井から埃やチリが落ちてくることなんて、今更問題ではない。
勿論、履こうとした靴下から蜘蛛が現れることも慣れたものだ。慣れたくなかったけど。
「さあ早くしなさい!起きるんだよ!早く!」
大きな声で言ってキッチンに戻っていくのを見届けて、いつも通りひび割れたレンズの丸い眼鏡をかけて物置部屋を出た。
リビングの部屋はダドリーの誕生日プレゼントだらけだった。
「朝食の準備をしてておくれ。焦がすんじゃないよ!今日は可愛い坊やの誕生日で、特別な日なんだから」
「分かってます。ペチュニアおばさん」
いつも通り返事をする。
でも今日はダドリーの為に朝食を焦がさないことよりも、昨日出会った女の子のことが気になって仕方がなかった。
本気で夢かと思ったけど、夢にしては少しリアル過ぎたと思う。あの声とか、それから柔らかい手の感触とか。
天使と友達になったなんて有り得ないことを言ったら、まともじゃない話が大嫌いなバーノンおじさんはカンカンだし、きっと誰も信じてくれないだろう。
でも僕は嘘なんかついていないんだ。
言い聞かせるように、右手をぎゅっと握った。
ただあの華奢な背中に生えた純白の羽が、他の人に見えなくても、僕には確かに見えただけだ。
しっかり焦がさずに焼いたベーコンを食べながら1人で納得していた時、ダドリーが言った。
「32、33……36だ。去年より2つも少ないや」
「可愛い坊や、マージおばさんのを数えなかったでしょう」
「分かったよ。でもそれでも37だ」
ダドリーの顔が徐々に赤くなって震え出したのを見て、憤慨したダドリーが机をひっくり返す前に僕は慌ててベーコンにかぶりつく。
「わ、分かったわ!ママがもう2つ坊やにプレゼントするわ。ね？それでいいでしょう？」
同じく危機感を感じたおばさんが慌ててそう言うと、機嫌がなおったのかプレゼントの包み紙をビリビリと破き始めた。
欲望のままプレゼントに飛びついて、まるで豚じゃないか。せっかく人間に生まれたんだから、少しは人間らしく我慢の一つしてみたらどうだ、と脳内で悪態をつく。
そんなこの家では当たり前の光景を横目に、僕は出かけたため息をなんとかギリギリでベーコンと一緒に飲み込んだ。
「(あーあ。昨日のって夢だったのかな)」
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作者名：とま | 作成日時：2022年1月31日 23時
