2話 ページ4
乾いたブランコの音が響いた。
少年のブランコではない。孤独な自分に心底悲しくなった少年は、ブランコを漕ぐのをやめてしまったばかりだ。
それならば、誰が？気づいて、顔を上げた。
隣のブランコには、真っ白い少女がちょこんと座っていた。
純白。目に映って最初に頭の中を過ぎったのはその一言だった。
もしかして知り合いかと記憶を辿ってみても、家の近所で見かけたこともない、少年と同じ学校の子でもない。
どこから来たんだろう。歳は同じくらいだろうか。
そもそも一体いつから居たのか、音もなくどうやって現れたのか、頭はぐるぐると忙しなく考えるが、目だけはただ隣に突如として現れた少女に釘付けになって逸らせない。
少年は瞬きすら忘れて見入っていた。
それはまるで脳に電撃が走ったような、かと思ったら、催眠にかけられてしまったような感覚だった。
瞬きをしなかったせいですっかり乾いてしまった目が痛くて、ごしごしと乱暴に擦ってからもう一度目を向ける。
間抜けな顔をした少年に、純白の少女はふんわり笑った。
『こんにちは』
少女が喋った。
小さな唇が動いて、鈴の音のような声を紡いだ。
少年はすぐに返すことができなかった。少年の喉からはただ掠れた空気が出るだけだ。
声を出そうとしてるのに、思ったように声が出ない。なんだか喉にティッシュか何かが詰まってしまったような感覚で、どうにもならない。
きっとここに彼ら以外の誰かが居たら、魚のように口をぱくぱくさせる少年の背中か頭をひっぱたき、「とりあえず落ち着け!」と声をかけるに違いない。
「こんにちは」と一言返せばいいだけなのに、そんなこともできないくらい少年の全身はただ目の前の少女の存在にいっぱいいっぱいだったのだ。
目を見開いて、口はポカンと開けて、何とも間抜けな面を晒している。
緊急事態だと言わんばかりに肋骨を激しく叩く心臓は、ハリーが脳内で待機命令を出したくらいで落ち着いてはくれないらしい。
しかし、それも仕方がない。
目の前に座る少女は、世界中のありとあらゆる美しい言葉をかき集めて生まれたような女の子だったからだ。
「(天使を見た……)」
とにかく、今の少年にはそれしか考えられなかった。
＊
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作者名：とま | 作成日時：2022年1月31日 23時
