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(安室視点)
ホテルに戻るや否や、フロントに駆け寄り写真を突き出す。
「この女性がホテルから出ていくのを見ましたか！？」
「え？い、いえ、見ておりませんが…」
俺が突き出したのはメルローの顔写真。
フロントスタッフは少々戸惑った様子でありながらはっきりと首を横に振った。
じゃあまだホテル内にいるのか…？
いや、組織が裏切り者の始末にこのような場を選ぶとは思えない。
焦ってまともに頭が回らない俺の前に、コナンくんが進み出てフロントに尋ねる。
「じゃあ、クリス・ヴィンヤードは！？」
フロントスタッフは今度のコナンくんの問いかけには「ああ！」と顔を輝かせ、「出て行かれましたよ！」と頷いた。
クリス・ヴィンヤード。
現在のベルモットの表の顔だ。
シャロン・ヴィンヤードの娘として鮮烈なデビューを果たしたアメリカのムービースター。
今はその女優業を休業しているが、人気は未だ衰えていないらしい。
その証拠にフロントスタッフは有名人との遭遇に大層喜んでいる様子である。
「ホラ、やっぱりあれクリス・ヴィンヤードだったんじゃん！」
「うそ、サインお願いすれば良かった…」
「でもお忍びだったらどの道断られたんじゃない？連れの人いたみたいだし…」
「え、いたっけ？」
間違いない。
ベルモットの連れの人物、それがメルローだ。
俺と顔を見合わせ頷いたコナンくんは、フロントに重ねて尋ねる。
「その連れの人って誰だった？どこに行ったか分かる！？」
「ご、ごめんなさい。どっちもよく覚えてなくて…」
流石にそう都合良くことは運ばないか…！
俺は思わず舌打ちしそうになるのを堪え、コナンくんを連れて車に戻った。
・
車内に戻った俺は必死に思考を巡らせる。
少なくともホテルにはいない。
けれどメルローが何処へ連れて行かれたのか、無事なのか、何ひとつ分からない。
「くそっ…！」
午後十一時四十五分。
もしベルモットが事件解決後すぐに行動に移したとするなら、メルローが連れて行かれてから十分は経過していることになる。
早くしないと、早く見つけ出さないと本当に間に合わない。
今度こそ奴らに殺されてしまう。
「落ち着いて安室さん！」
コナンくんに叱咤された俺は顔を上げた。
彼は年に見合わぬ冷静さで、静かに告げる。
「……メルローの候補は、四人だよ。」
彼の頬に、冷や汗が伝った。
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作者名：しま | 作成日時：2018年5月8日 23時
