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ちょっと笑っちゃう現象が起こってるんですけど聞いてくれますか。
お見合いを明日に控えた午後、もといXデーまで残り二日となったある日の昼下がりに、私は気晴らしも兼ねて外出した。
明日のお見合いの会場となるホテルを下見したかったのもあるが、ただ居ても立っても居られなくなったのである。
あのまま家で、胃をギリギリさせながら何をするでもなく過ごすのは、正直拷問に近い。
そう思って外の空気を吸いに来たのだが、その“外”にはこれまた思わず笑っちゃうほどの風景が広がっていたのである。
・
「この女に見覚えは?」
「……いえ、ありませんわ。」
私の返答を聞き無言で写真を懐にしまった男は、何一つ礼を言うことなく去っていった。
ちなみに上記の質問を受けたのは今日で四度目である。
かつて私が佐藤千佳子として過ごした土地を訪れると、そこは何というか、真っ黒い人間だらけだった。
姿、雰囲気に限らずおそらく犯歴も真っ黒な人々である。
そう、組織の中で佐藤千佳子の生存はもはや確定しているらしかった。
行く先々で「コノ女二見覚エハ」の掛け声とともにメルロー顔の私の写真を提示される。
写真の私、めちゃくちゃツリ目。潜入頑張ってたんだなあ。
他人事のような感想を抱きつつ首を横に振り続けた。
(これ、もし見つかったら確実に幹部クラスの人とご対面だよな…)
頼むジンだけは勘弁してくれ。
噂の詩ジンを生でやられたら僕は私は む゛り゛ぃ (即死)
いや詩ジンモードに入るより、私の体の風通しがよくなる方が早いかもしれないが。そっちの方が可能性としては高いが。
とにかく本当に私を殺る方向になったときはどうかコルンあたりを差し向けてください…
きっと彼は必殺仕事人してくれるはず…
妙ないたぶりとか遊びはきっと無いはずなんで…
あまりの恐怖に口元が引きつり、思わず笑ってしまいそうになる私は、そろそろ精神的に限界を迎えているのかもしれない。
ああ……癒しが欲しい……
安室さんによしよしされたい……
全てが終わったらワガママお嬢様としての権力を振りかざしてでも安室さんによしよしして貰うんだ……との傍迷惑な決意を胸に秘め、私は帰路に着いた。
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作者名:しま | 作成日時:2018年4月29日 21時