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(安室視点)
度重なる爆発で焼け落ち沈没していく豪華客船を、救護ボートの上で眺めていた。
船は港近くまでやって来ていたために、俺たちは比較的早く陸上にたどり着くことができた。
生還を喜ぶ声、どうなっているのかと喚き散らす声が方々から聞こえる。
そんな中でいまだに船から目を離すことのできない俺のもとに、あの女子大生が……、女子大生に扮したベルモットが歩み寄った。
「ジンからの命令よ。悪く思わないでね。」
「……メルローがあの船に乗るという情報は、掴んでいたのか。」
「いいえ?乗り合わせたのは全くの偶然だし、あなたがあの船に乗っているなんてことも、知ったのは随分後になってからよ。」
脱出の際に濡れたらしい髪をかきあげながら、ベルモットはため息混じりに告げる。
「ジン、言っていたわよ。『バーボンはメルローの始末に関して手を抜く恐れがある』と。……勿論私も同意見だったわ。」
「だってあなた、メルローに惚れていたでしょう。」
俺は何も言わずに唇を噛む。
ベルモットは俺の様子を見てフッと笑うと、おもむろに煙草に火をつけた。
「その感情があったから、メルローの始末はあなたに任せておけなくなったのよ。実際に手をこまねいていたみたいじゃない?」
「だから私が代わりに殺ってあげたわ……彼女の部屋番号を聞き出して、くすねたマスターキーで彼女の部屋に入り、ドアを開けた瞬間に爆弾が起動する仕掛けをしてね。」
「部屋に例のディスクはなかったから、きっと彼女自身が所持していたのでしょうけど……あの爆発に巻き込まれたら、いくらメルローとはいえ助かる可能性は––––––––」
「やめろ!!」
これ以上聞いていられなくて、俺は絶叫した。
ベルモットは何も言わずにこちらを見つめている。
俺はギリ、と歯を食いしばり、様々な感情が口から漏れ出そうになるのを必死になって耐えた。
「……もう、いいですよ。組織にとっての障害が消えたのなら、何よりだ。」
ともすれば震え出しそうな声で、心にもないことを吐き捨てた。
そのままベルモットに背を向けて歩き出す。
港には橙色の救護ボートが無数に積み上げられている。
その中で唯一黄色いジェットスキーだけが、その場から浮いていた。
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作者名:しま | 作成日時:2018年4月29日 21時