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2.紺茫の瞳 ページ4

2.紺茫の瞳

 はたけくんが忍者学校を卒業した。その四ヶ月後、わたしも後を追うようにあの場を去った。唯一の盟友のリンには寂しがられたけれど、また会うことを和やかに約束してわたしは前を見据えた。──立ち止まっていられる理由は私には残っていない。
 窓の外から朝虹が見えて、もうそんな時間かとのそのそと起き上がる。今日ははじめてのCランク任務の作戦会議が行われるため早めに集合場所へと向かわなければならなかった。
 大きく息を詰まらせて背伸びをする。だるんと降ろした腕と共に呼吸を和らげてそれからもういちど。

「──あら、もう起きてたの」

 部屋を覗きにきた母を見て『うん』と呟いた。今日の朝ごはんは何? あなたの大好きなものばかりよ。そうなんだ、楽しみだな。口からするすると出てくる言葉に自ずと空笑いをしそうになる。特段、母のことが嫌いなわけではない。ただあの一件からこちらの気持ちを理解しようとしない姿勢に一方的に背を向けているだけ。それで空っぽの笑みを浮かべてしまっても、少しは許されるでしょう?

 (……なんて、誰に言い訳をしているのか)

「いただきます」

 ご丁寧に手を合わせてそう告げると母は満足そうに『召し上がれ』と返答した。それに対してからからと応じて朝から食べるには重たいハンバーグに手をつける。……正直に言って、とてもおいしいとは思えなかった。

「母さん、今日遅くなるから早めに寝ててよ」
「そうなの? わかったわ」

 ありがとう。そう二の句を継ぎかけてやめる。それが誰に対しての感謝なのかわからなる前に。

「でも、できるだけはやく帰ってくるのよ? この前だってあなた、大怪我して帰ってきたじゃない」
「……うん」
「母さん、これでも心配してるのよ? ……あなたのお父さん、みたいなこと、には、なってほしくないもの」

 所々言葉を詰まらせながらベラベラとあの時の苦労を語る母の姿を見て先程楽になったはずの呼吸がやがて蝕まれていく。それでもわたしは『完璧』でなければならなかったから『苦労かけさせてごめんね。いつもありがとう』と言葉を取り繕う。
 それでも尚母は口を閉ざさないから、当然食欲は失せるわけで。

「ごめん、母さん。班員が待ってるから」

 箸を置いて荷物を掻っ攫う。

「あら、そう。こっちこそごめんなさいね、もう昔のことなのに」
「うん」

 ……そう思ってるのなら過去の幻想に縋るのやめてよ。

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作者名:透桜子 | 作成日時:2022年8月3日 21時

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