【第弍拾玖話】 横浜:探偵社内:事務室 ページ41
(……届ッ、け!)
黒霧は躯に纏わり付き、簡単な動作さえも出来なくする。
距離的には、たった五歩程の距離でさえ遠く、何
医務室の扉が目の前に見えて居る筈なのに、不意に国木田の視界に映るのは『蒼の使徒』が、薄身のその命を散らしたあの日の廃病院。
伸ばす手の向こうで、薄ぼやけ乍ら微笑む女性が見えた。
【……国木田様……】
懐かしい微笑みも、優しかった声も変わらずに、鮮明に見えて目を見開く。
見えない筈の情景の向こう、手を伸ばす先に微笑む何時かの女人。
思考が真っ白になって、静止した国木田に黒霧が襲う。
「国木田さんッッ!!」
そう叫んだのは、誰か。 視線は目の前で微笑む、何時かの人から逸らせない。
(何故………)
躯が、思考が、心が白くなり、空白になる。
ズアッ……!と自身を呑み込む黒霧にさえ、抗わなかった。
【……ねぇ、国木田様……?】
黒に染まる躯も、侵食される精神も、自身の呼吸が締め上げられても、反応を示せない。
優しい声は、かたちの良いその唇から、音を吐いた。
【……国木田様……私は、貴方が……】
長い黒髪も、顔を伏せた事で震える睫毛も、細い頸も、凡て変わらず。
白く――不思議と美しかった白和装で、彼女は其処に佇んで居た。
【……国木田様……】
現状が理解出来ずに、伸ばした手が後少しで、触れようと――
『影よ 闇よ 歪みよ 此処から立ち去りなさい』
鈴の音の様な声が響き、停止した時間が、開かれた扉から吹いた突風と共に動き出す。
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暖かくも清らかな風が、凡てを祓った。
煌めく神々しい程の何かが、汚染された身を清めた様な感覚。
「……何が、起って……?」
そう、呟き顔を腕で覆っていた敦は周りを見た。
混沌として居た事務室は静まり返り、顔を伏せて居た全員が何が起こったのか理解出来ずに、一先ず自身の無事を確認した。
黒い霧は跡形も無く、床の一部で、燃え尽きる炎の様に燻って居た。
――何が起きたのか?
その答えは、開け放たれた医務室の扉の向こう側から響く声によって判る。
『――世の
鈴の音の声。栗色の髪の少女が、手を合わせた。
それだけで燻る黒霧は弾けて消える。
傍に立つ膝丸と堀川が刀を仕舞い、床に跪いた。
「――【主】」
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乙女になりたい。(プロフ) - お疲れ様でした!!とても楽しい作品でした!! (2020年10月11日 1時) (レス) id: a5fb63b44e (このIDを非表示/違反報告)
焼きまんじゅう(プロフ) - あやとりさん» お久しぶりです、僕の方こそ有難う御座います!続編も合わせ、是非とも宜しく御願いします……♪ (2018年3月10日 22時) (レス) id: 1eccbbab7e (このIDを非表示/違反報告)
あやとり - 焼きまんじゅうさん» ふわぁ…私こそ毎回この作品を楽しませていただいき本当にありがとうございます!これからも頑張ってください! (2018年3月10日 20時) (レス) id: bfcb2a7bd0 (このIDを非表示/違反報告)
焼きまんじゅう(プロフ) - はい、複数人ならば構いませんよ!リクエスト有難う御座います……☆ (2018年3月10日 20時) (レス) id: 1eccbbab7e (このIDを非表示/違反報告)
優梨奈(プロフ) - 粟田口と三条(でもいいんですかね?)でお願いします! (2018年3月10日 20時) (レス) id: 7cf4248c7f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:焼きまんじゅう | 作成日時:2017年10月9日 5時