助けてあげられなかった ページ14
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「…さっき主治医の方からご連絡があって…。移植、受けれるはずだったんだけど急遽取りやめになったでしょう?そこからもう、ハルトの気持ちが弱っちゃったんじゃないか、って…。」
…取りやめ。
聞かされていた移植話の取り下げに涙したのはつい2週間前だ。
ふと床を見る。
お財布の隙間から、挟まっていた緑のカードが見えた。
臓器提供意思表示カード。
「病、院には…?」
「まだ行ってない…ついさっきだったし、もう…お母さんどうしていいのか分からなくて…。」
嗚咽を漏らす。
思わず駆け寄り体を抱きしめると、記憶の中よりもだいぶ細い体躯で胸が苦しくなった。
……自分のことばっかりだった。
息子を失うかもしれない絶望の縁に立たされていた、お母さんの気持ちも考えるべきだったのに。
A、どうしよう。
うわ言のようにずっとそう呟く母親の背中を、優しく摩ってあげることしか出来ない自分は無力だ。
「……ハルト、ごめん。」
お姉ちゃん、助けてあげられなかった。
ハルトが急変した際には、お姉ちゃん何しても貴方に心臓あげる気持ちだったのに。
詰られると思っていた母親には泣きつかれ、どうすればいいのか分からない。
いっそ罵倒してくれればよかった。
何のためにそのカードに意思表示させたのかと、大声で叫んでくれれば気分は幾分か晴れたのに。
「ごめん、ごめんね…ダメなお姉ちゃんで、ごめんね」
そう甘くなかった。
急変してから僅か数時間の間に死亡が確認され、呆気なく弟の人生は終了してしまった。
カバンから顔を覗かせる薄ピンクの封筒を滲む瞳で目視する。
都内の音大。
最高難易度と呼ばれるその大学のパンフレット。
「…こんなモノ。」
再開したいと思っていたピアノは、もう弾けない。
途端に色褪せて見えるその封筒をビリビリと2つにちぎった。
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みりん(プロフ) - ゆめさん» ゆめさんありがとうございます!長ったらしい小説家とは思いますが、ここまで読み進めていただいたことマキタにありがとうございます!ꈍ .̮ ꈍ メッセージの方でパスワードを送らせて頂きますね! (4月13日 20時) (レス) id: 54bed94868 (このIDを非表示/違反報告)
ゆめ(プロフ) - 初めまして!みりんさんの作品全て読まさせて頂きました! どれもとても素敵な作品で、出会えた嬉しさでいっぱいです! これからも陰ながらですが、応援させて 頂きます!お時間のある時に0の方のパスワードを 教えていただけると幸いです! (4月13日 16時) (レス) id: 23764cc589 (このIDを非表示/違反報告)
みりん(プロフ) - はるさん» はるさん、嬉しいお言葉ありがとうございます…!(*ᴗˬᴗ) EP0のパスワードの方、メッセージにて送らせて頂きますね! (4月12日 1時) (レス) @page42 id: 54bed94868 (このIDを非表示/違反報告)
はる(プロフ) - はじめまして!素敵な作品を拝見させていただきありがとうございます!文章力が素晴らしくて凄く感情移入しました( ꈍᴗꈍ) 宜しければEP0の方も拝見させて頂きたいです!お時間ある時によろしくお願いします! (4月11日 18時) (レス) @page40 id: 18e6227b50 (このIDを非表示/違反報告)
みりん(プロフ) - ありがとうございます!︎おふたりとも、メッセージの方にてパスワードを送らせて頂きますね!ここまで読んでくださり嬉しい限りです(^_^*) (4月9日 22時) (レス) id: 54bed94868 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:みりん | 作成日時:2023年3月21日 2時