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序章 少女の涙 ページ1

その少女は、今まで外に出たことがなかった。

もちろん両親に出るなと言われ、少女はそれに従った。

十五歳を迎える頃になったある日、外出許可が降りた。

彼女は軽い足取りで、屋敷のように大きな家を飛び出した。

少女の見る外の景色は、それこそ輝いているように見えただろう。

道に迷っても、大人に聞けば分かりやすく教えてくれた。

そんな初めて見る世界に、少女は感謝した。

この世界に生まれてきて、良かったと。

かなり大袈裟な話ではあるが、今まで外を知らなかった少女は純粋にそう思ったのだ。

彼女も十五歳である故、将来すべきことを考える時期だった。

本日外に出るまでは全く決まっていなかったが、家に戻る頃には決まっていた。

この、ヨコハマという街の、役に立つ仕事がしたい、と。

外の世界に触れ、見る世界が変わり少女の心は浮足立っていた。

日が暮れると、夜は危ないからと大人に家まで送ってもらった。

玄関先で別れると、今朝に飛び出した豪奢な扉を引く。

家の中は、鉄のような異様な臭いで埋め尽くされていた。

「お、お母さん…?お父さん…?」

その臭いに顔を歪ませながら、両親を呼ぶ。

玄関から点々と落ちている赤い液体に、嫌な予感がした。

それは嫌な予感というには、あまりにも確信的だった。

少女の母親は、リビングのソファに横たわっていた。

腹から赤い液体を垂れ流して。

少女の父親は、自身の書斎の扉付近で仰向けになっていた。

母親同様、腹からは赤い液体が流れている。

「お父さん…お父さん、締切は?
そんな…そんな、ところで寝ていたら、間に合わないよ…」

その直ぐ後に、少女の両親が雇っているメイドが帰ってきた。

異変に気付いたのか、慌ただしく走っている振動が書斎まで響いた。

少し遅れて叫び声が聞こえた。

ふらふらと歩くメイドを、少女が視界に捉える。

メイドは少女を優しく抱きしめた。

そのときようやく『両親が死んだ』という事実を突きつけられた気がした。

視界が、ぐわんと揺れる。

朦朧とし始めた意識の中、少女が最後に聞いたのは書斎に響くインターホンの音だった。

序章 少女の涙 弐→



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作品ジャンル:アニメ
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名無しの遊霊 - 僭越ながら復活を果たしました、名無しの遊霊です。また自分なりに良いものが書けるよう精進していきますので、これからもよろしくお願いします。 (2019年8月26日 3時) (レス) id: 4dce8b1b93 (このIDを非表示/違反報告)
名無しの遊霊 - 天然石。さん» ありがとうございます!天然石。さんも受験お疲れ様でした!私のファンなんていないと思うのできっと大丈夫ですよwww (2019年3月8日 14時) (レス) id: 6423abd6f3 (このIDを非表示/違反報告)
天然石。(プロフ) - 受験お疲れ様でした。1500hitおめでとうございます。どれだけの人が見ていても私がいちばんのファンでありたい。と思いました。 更新待ってます (2019年3月5日 15時) (レス) id: a11c4ee981 (このIDを非表示/違反報告)
名無しの遊霊 - 天然石。さん» そうでしたか?表現の仕方は自分でも気が付きませんでした!というかここでも遂に敬語外すようになったみたいですねwwwありがとうございます。これからもなる早で頑張らせていただきます。 (2018年9月19日 18時) (レス) id: 486de41c9b (このIDを非表示/違反報告)
天然石。(プロフ) - メールに送ろうと思ったけど気力がないのでこちらへ なんだか表現の仕方がガラッと変わった気がする…?情景描写がとても好きです舞ちゃんが可哀想で仕方がない…鏡花ちゃんが好きじゃなかったらスマホ投げ飛ばしてたね…危ない危ない (2018年9月17日 18時) (レス) id: a11c4ee981 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:伊織するめ | 作成日時:2017年12月9日 10時

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