． ページ36
やばい。だって、私はここまで、止血をしていない。怪我を隠したかったから。
どれだけ血液を失ったか計算できない、思ったよりもこれは、まずい状況なのかもーー。
「…！！おい吸血屋、てめぇ、顔色が酷い。どういう事だ」
項垂れたまま顔を上げない私をおかしく思ったのか、遂にローさんがしゃがみこんで顔を覗き込んできた。自分がどんな顔色をしているかなんて分からないけど、ローさんの表情が一瞬にして変わった所を見ると、非常にまずいのかもしれない。
何か言わなきゃ、と思ったけれど、それすら叶わずに。
私は意識を手放した。
◆
Aの顔は青ざめていた。
それこそ、初めて彼女の顔を見た時と同じくらいに。
「…A、おい、A。意識はあるか」
返事は、無い。
一瞬にして様々な可能性を考える。
いつから、どうして、何があったか。
結論を導き出すのは簡単だった。いや、むしろなぜその可能性を考えれなかったのだろう、と自分を疑うくらいに。
Aの足を確認する。まさか、いや、きっとそうだ。
もう既に嫌な確信を抱いていた。ブーツの紐を緩め、脱がせる。
「っーー！！！クソ、馬鹿野郎が」
出てきたAの足を見た瞬間、俺は悔しさに歯を食いしばった。
血に塗れ、赤黒く染まっているAの白い足。そこには、しっかりと弾丸が残っている。薄い足の甲に突き刺さるようにして。
痛々しく、めり込んでいた。
…こんな足で、歩き続けていたのか…？
Aは鉄製の靴だから大丈夫だなんて言っていたが、鉄製なのは靴底だけだった。
Aの考えを一瞬で理解する。
彼女は本当に最善の選択を合理的に選んでいたらしい。自分の足が貫かれる事を分かった上で、あの距離で弾を受け、貫通した弾が俺に当たらないように、自らの足と靴底の鉄板で確実に受け止めたのだ。
弾丸自体が栓の役割を果たしていて出血はまだ少ない。今ここで弾丸を取るべきじゃない。
そう判断した俺はすぐさまAを抱えて、なんの躊躇いも無く能力を発動し地上へと出た。
「…くそが」
憤りがぶわりと溢れた。勿論Aに対してもだが、それよりも、少し考えれば容易に想像できた筈の可能性に気付かなかった自分にも。
最大限の全速力で、俺は宿へと夜の街をかけぬけた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 160人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：幸せうさぎ | 作成日時：2023年2月11日 3時
