【短編集】色々な君へ (ページ35)

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一緒に作った料理を食べ終え、後片付けも済ませるといよいよやることがなくなってしまった。Aはソファに腰掛けながらそわそわと落ち着かない様子で坂本を見る。するとその視線に気付いたのか坂本がこちらを見てきた。

「なに？」

「いや、その……」

Aは言い淀むと視線を逸らす。しばらく見ない間に随分と姿が変わってしまって、なんだか見惚れてしまっていたとは言えなかった。少し伸びて整えられたヒゲも、少しくせのついた髪も。全てが新鮮でかっこいいと思ってしまう。

「A？」

坂本が不思議そうに見つめてくる。その視線にもドキドキしてしまい、なんだか恥ずかしくなってしまった。Aは立ち上がると坂本に近寄っていく。そしてそのまま胸に顔を埋めた。

「うわっ！？」

いきなりのことで驚いたのか、坂本は慌ててAを抱きとめる。しかしすぐに状況を把握したようで優しく頭を撫でてきた。それが心地よくてもっとして欲しいという風に頭を押し付けると今度は強く抱きしめられる。

「甘えんぼやな」

坂本はそう言うとAの髪を梳くように撫でてきた。その気持ちよさに身を委ねていると、不意に眠気が襲ってくる。

「もう寝るん？」

坂本の問いに小さく首を横に振ると、Aはくしくしと目を擦る。まだ寝るわけにはいかないと思っていても、早朝からずっと動き回っていたせいで疲労が溜まっているのも事実だ。

「ん、……」

Aは坂本の服の裾を掴むと寝室へと向かった。そしてそのままベッドに倒れ込むようにして寝転がる。坂本もそれを追いかけるように布団に入ってくるとAを抱き寄せてくれた。その温もりを感じながら目を閉じるとすぐに睡魔に襲われる。

「赤ちゃんかよ……おやすみ」

坂本の優しい声を聞きながらAは眠りについたのだった。