Episode 11 ページ11
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「 伊黒さん、伊黒さん、あの 」
そのまま何も言わず、
5分くらい経ったのだろうか、Aの手を引いて歩く。
Aは訳も分からず、俺の名をずっと呼んでいる。
まだ、元気だった頃のAと見た 大きな桜の木。
「 御辨當でも作って伊黒さんとお花見したい 」と
言ってくれていたのを鮮明に覚えている。
急に静かになったAに気付き、
その下で止まり後ろを振り返ると、桜の木を見上げていた。
そこでようやく俺は口を開いた。
「 …君はなんなんだね、
俺の事好きではなかったのか、あれは嘘だったのか、
俺の事を弄ぶようになったとは、随分だな 」
「 ……！？ 」
すると、驚いたように顔を赤らめるA。
久々に見たその可愛らしい反応に、
表情が柔らかくなるのが自分でも分かる。
「 俺はただの同情で君を屋敷に住まわせていない、
君は分かってくれていると思っていたのだが… 」
「 え、えっと…… 」
「 俺が好きだと言った事も、抱き締める事も、
一緒の布団で寝る事も…」
「 わ、わぁ！伊黒さん、あの！！！ 」
とうとう恥ずかしくなったのか、俺の言葉を遮る。
「 私、あの、伊黒さんの事、本当に、大好きです 」
「 …そうか、それで 」
「 でも、伊黒さん、私がだめだから…
私がずっと、抜け出せないから、
責任を感じて、一緒にいてくれてるんだって 」
今度はポロポロと、涙を流し俯きながら言うA。
表情がコロコロと変わるAに、またもや懐かしさを覚える。
そこで、俺は気付いた事がある。
＿＿＿ あぁ、そうか、俺は
「好き」なんて、以前は君に1度も言ったことがなかったな。
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作者名：うるりもち | 作成日時：2025年9月15日 2時
