【坂田】小さい夢でも叶うとは限らない/sera ページ25
*
割れんばかりの大きな歓声を浴びながら、舞台裏に戻る。
センラ、俺、まーしぃ、うらさんの順番で戻りしばらく経っても歓声は響いていた。
徐々に歓声が消え、鮮やかなペンライトの色も薄まっていく。
落ち着いた途端、全身に帯びる疲労感と熱を意識する。
暑い、けど。
(…探さんと、Aを)
タオルで首筋を伝う汗を拭い、ぐっと奥歯を噛みしめる。
関係者席にAがいた。会いたい、Aが帰る前に。
衣装も脱がずに、だっと駆け出した。向かうのは、関係者出口の方向。彼女の気配のする方向へ。
「…っは、A…!!」
「…悠?」
どくどくと脈打つ心臓に不快感をいだきながら、彼女の名を呼ぶとゆっくりと振り返り、その声で俺を呼ぶ。
彼女は瞳に俺の姿を捉えると、眉尻を下げてそんなに走ってどうしたの、なんて言って。
…やっぱりAは俺の気持ちなんて、分からんのやね。
「A、すぐ帰るんやもん」
「邪魔しちゃうかなって思って」
「…邪魔ちゃうよ。俺の彼女…やん。メンバーもAと話したいって思っとるよ」
「ふふ、そっかあ」
だといいね、なんて他人事。
いつだって彼女は他人事だ。興味がない。俺のことも、…自分自身のことも。
俺が横を歩いていてもよくナンパされるほど容姿端麗な彼女が、何故俺と付き合っていて、俺に好きと言ってくれるのか。
未だに不安になるときがある。
彼女の手を握り、温もりを感じれば感じるほど、寂しくなってしまう。隣にいるのに。
…でも、こうやって、俺のライブに来てくれるということは、少なからず俺に好意を向けてくれている。…そう、思いたい。
「A、今日このあとひま?」
「…ひま…じゃなくもない」
「ははっ。じゃあ打ち上げ行こ、ね?」
「……仕方ないなあ」
くるんとカールした睫毛の奥を覗き込むと、彼女は頬にほんのりと赤をさして納得のいっていない顔で頷いた。
彼女の手を攫うと、じとりとした感触。
汗の似合わない彼女が手に汗を握っていたということだろうか。
んふ、なんて緩む口元を隠そうともせず、俺は彼女の手をぐいっと引っ張った。
.
40人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
飴依存症の人*神作掘り出し隊(プロフ) - すげえ…どれも良かったけど菊花さんので泣いちまったよ…。 (2019年9月13日 16時) (レス) id: 9ac419bf0d (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ