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『絶対、うらたさんにはわからないです!』
『ごめんなさい』
酷く傷ついた顔をして自室へ駆け込んだ彼女を引きとめることができなかった。
「あー、言葉選びってか話の順番間違えたな」
Aは最近、どこか焦っているように見えた。その原因も理由もなんとなく気付いていた。それを解消してやりたかった。焦ってもいいことなんてないのだから。
彼女の父親が少し有名で人気のある声優であった。そんな父親に憧れた彼女は自分もその道を選び、努力と才能、なによりも彼女自身の実力で同期の人たちより少し早くデビューした。少なからずそれをよく思わない人はいるわけで。
"Aは親のコネを使って自分たちより早くデビューした。"
ある時、そんな噂が流れた。それはすぐに広がって、彼女にも届いてしまった。最初の頃はあまり気にしてないようだった。『父が有名なのは事実なので、コネを使ってるなんて言われても仕方がないんです』と、そう言っていた。
そんな彼女を見て面白くなかったのか、Aに関する様々な噂を流しはじめた。全て虚偽の作り話だった。
そんな噂に振り回されない人はもちろんいる。噂は所詮噂で、彼女の実力をちゃんと認めて正当に評価してくれる人が。
だけど、その噂を信じてしまった人がいるのは事実で。噂を信じてしまった人は彼女自身を正当に評価できなくなっている。噂通りの子なんだろうな、と。
それが、Aを苦しめ焦らせている原因である。噂を信じてしまった人から陰口をたたかれ、事実を話しても信じてもらえないから聞こえていないふりをする。それは徐々に徐々に彼女の心をすり減らして......。
「きっと限界だったんだろうな」
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