* ページ2
.
「経過はどう?…って言ってもまぁあんまり変わらないだろうけど…」
「変わらないですね〜。」
小さい頃からの主治医との会話にはもう慣れたものだ。私は生まれた時から色の判断が出来なかった。彩度なんてものはなく、あるのは明度だけ。
「そうかぁ…回復の見込みもないからなぁ…」
「私は気にしてませんよ!?」
「ああ、Aちゃんのポジティブな所は本当に羨ましいよ。他の患者さんも羨ましがってるぐらいだし」
カルテに軽く目を通しながら微笑む主治医の横顔が本当に美人だな、と改めて思う。彼女のお陰でこうして明るくいられるのも事実であるし、そのサポートによって色が分からない事をどうにかして生活出来ている。やはり医師とは凄いものだ。
花火を見に行く、とそらると約束はしたもののやはり色が分からない、私の世界はモノクロだと言うことを考えると泣きそうになる。
だが、それをあの心優しいそらるに勘付かれてしまうとまずい。非常にまずい。
ごめんね、俺どうすることも出来なくてと酷く傷付いたような顔をしながら何日も私のことを気にかけてくれるし、その具合は過保護な親バカなのではないかと言うレベル。
主治医にだけ相談して、それを家に持ち帰らなければ良いのだ。
「先生、今度そらると花火見に行くんですけど」
「花火?あら、良かったじゃない」
「何か、こう、花火ってきっと色が分かってたら綺麗なんだろうなぁって悲しくなるんです」
「…そらるくんには?言ってあるの?」
「……………言えません…」
苦笑いでそう返すと、子供を宥めるかの様な口調で私の顔を覗き込む。
「きっと、そらるくんもそれを知らないままってのは傷つくわよ」
「でも、知った方がそらるは悲しい顔します」
「ううん。例えばAちゃんがそらるくんが悲しんでることあったら力になりたいって思うでしょ?それに力になれるなれない関係なく、大事な子が苦しいままでいるのを知らないままで居るってのが一番辛いの」
(…確かに、そうかもしれない)
私だって、そらるが一人で苦しんで居たりしたことを知ったら酷く傷付く。実際に前にもあったのだ。だから、ここで私が隠していては返って彼を傷付けてしまうだけだ。しっかりと話さなければ。
よし!と診察室の椅子から立ち上がり、カバンを持つ。悲しいならば悲しいとしっかり彼に伝えるのだ。
(そらる、わがままでごめんね。自分から言い出したけど悲しい事には変わりないんだ)
19人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「歌い手」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ