【坂田】1番好きなのなーんだ？/sera ページ23
*
「…だれ、あんた」
陽射しを受けた赤髪がきらきらと輝く。
何度もこの両手で包んだ柔らかそうな白い頬。
甘い
知ってる。私は彼を知っている。
彼を想い、脳裏に彼の姿を思い描かなかった日などなかった。
それなのに。
私を鋭く射抜く冷たい瞳。
私の手を弾き返したふっくらとした手。
唇から出る言葉は私の心を引き裂くものばかり。
知らない。私は
瞳も、手も、言葉も、私をいつも温かく包み込んでくれたのに。
坂田くん…
「…なん、で…」
その時だけは、鼓膜を打つ蝉の鳴き声を、煩わしいと感じられなかった。
❀·❀·❀
「＿記憶喪失、」
きおくそうしつ。キオクソウシツ。記憶喪失。
目の前で悲しげに立ち尽くす、坂田くんのお父さん。
彼が掠れた声で呟いたその7文字を、脳内で反復して、噛み砕こうとするけれど、涙が出てくるだけで一向にその言葉を理解することなどできなかった。
「…二年間の記憶が…」
「そう、ですか」
二年間。
ということは、私との思い出丸ごと消えてしまったということ。
だって、私が坂田くんに出会ったのは二年ほど前だから。
ううん、そんなこと頭で考えなくたって分かる。
だってさっき病室に行ったら、思いきり手を払いのけられてしまったから。
つまり、そういうこと。
お義父さんから詳しく話を聞いた。
階段から落ちかけた小さな子供を庇って、思いっきり頭を地面にぶつけてしまったらしい。
幸い打ちどころが良かったらしく、出血は酷くなかったそうだ。
また、その場にいた人が迅速に救急車をしてくれたからだと言う。
坂田くんは正しいことをした。讃えられるべきだ。
でも、それでも何で坂田くんが、という悪い思考がひっそりと働いた。
どうしたらいいか、なんて、私には分からなかった。
ただただ、悲しみとやるせなさが胸を侵食した。
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