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 一度しか会ったことのなかった女性を自分の母であると認識したのだ。だが、召使いの顔は曇る。彼の母親は現王に盲目だ。彼女の目には王しか写っていない。召使いは彼女にとってただの都合のいい人であり、息子、フェデリコは彼女にとってただの子供だったのだ。

 召使いはこんな幼い子供に、王子に悲しい顔をさせたくない、かと言って嘘を言うのもと思い、優しい嘘を多く混じえて話す。

「奥方様は今、お部屋に閉じこもっております。現王…王子のお父様のことで少々考えていることがあるのです。…それでも、いつか、いつか絶対奥方様は王子の目の前に、また姿を現してくれますよ」

 4歳、第一次反抗期を終え、社会との関わりを始め出す年頃。彼はそんな召使いの言葉を片隅に母の部屋へ行くことを決めた。召使いは優しい、沢山遊んでくれる。だが、彼にとってやっぱり実の母がそばにいないということは不安で、怖い。召使いに内緒で、見つからないように部屋を飛び出すのだ。

 一度しか会ったことのない僕のマーマ。愛するマーマ。母である彼女に撫でてもらいたい、沢山お話したい。自分の体ではひとまわりもふたまわりも大きいその扉。頭より少し高いドアノブに両手を伸ばし、その扉を開く。

 扉のその先には幼いフェデリコが思った光景とは全くもって違うものだった。母の姿は初めて見たあの日よりも痩せ、細いと言っても健康的ではない。やつれており、目の下にはクマができている。

「ヒッ」

 声が漏れた。恐怖、驚き、その他もろもろ。様々な感情の混じった声が漏れた。

 その声の聞こえた母はフェデリコの方へ顔を向けた。そして、姿を捉えた瞬間とてつもない形相をした。ベッドからゆるりとまるで幽霊かのような空気で、足取りは重くゆっくりと近寄ってくる。フェデリコは動かなかった。否、動けなかった。目には涙が溜まり今にも溢れだしそうである。
 目の前に来た母はフェデリコの肩を強く掴む。

「痛い、痛いよ、マーマ」
「マーマなんて呼ばないで!!!!!!!!!」

 母親の大きな声に肩をすくめる。

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作者名:あんころもち。 | 作成日時:2020年4月9日 13時

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