無色な詩姫【イナオリ】第三章

〇失敗してもいい ページ16

「ほらよ！」

「っ……」

「……次はしっかり取れよ」



灰崎は舌打ちをグッと堪えて詩音にそう言って背中を向けた。

その背中を見て詩音の頭はたちまちハテナで溢れかえった。



「(……いつもなら舌打ちしてるのに……)」




「あ……」

「大丈夫、詩音？ほら」

「あ、ありがとう……ございます」

「気にすんなって！失敗なんて誰にでもあるんだから」

「……！」



相手のスライディングで転けてしまった詩音に稲森が手を差し出す。

戸惑いながらお礼を言う詩音は稲森は笑顔で言った。




「楽しもうぜ！」





その言葉に詩音は目を見開いた。


そんな発想は今まで全くなかったから。





『失敗してもいいんだ、とにかく楽しんだ方が勝ちなんだよ』






いつか、お父さんが言ってくれた言葉。






『失敗は成功の母ってよく言うだろ？』







忘れていた父の面影が稲森に重なって見えた詩音の瞳に輝きが戻り始めた。







お前の思うままに、自由にやればいい









回ってきたボールを受け取った詩音はいつもの無表情ではなく、何かを決意したような表情で前を向いた。




その瞳には迷いなどは一切なく、真っ直ぐな光だけがあった。









分かったよ、お父さん

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