35.消えた少女と。 ページ36
周りの様子を気にしていないようにも見える(恐らく)親子。男子の方は蒼太のクラスメイトらしい。そんな彼の近くに、1つの帽子が落ちていた。明らかに女子の帽子で、キッズエリアに置いてありそうなデザイン。可愛くてド派手で、小さめで……
「……加奈ちゃんがいない」
不意に、蒼太が言った。加奈ちゃん……名前からして多分女の子。
「加奈ちゃんって?」
聞き返すと、蒼太は目を伏せた。理紗も健も黙り、次の言葉を待つ。
「本名は……谷口加奈……」
……谷口って、まさか。
「……谷口海人くん……彼の、妹だ。見当たらなくて、海人くんが泣いていることからして……」
もしかして、いや、もしかしなくても……
ほんの少しだけ感じていた嫌な予感は、きっと的中した。
被害者は、彼女なんだ。
蒼太が海人くんに話しかけているのを眺めながら、私たちはSNSで今回の件について調べていた。検索したら、出てくる出てくる。何人かの投稿を元に、できる限りの情報を集める……というか、皆さん具体的すぎませんか。所在地バレるんじゃ……
……まあ、助かったからいいけど。とにかく、落ちたのは加奈ちゃんで間違いなさそうだということが分かった。いつも通りに救出して、いつも通りに引き渡せばいい話だ。
蒼太も、被害者は加奈ちゃんだと言った。やることは決まった。加奈ちゃんを助けに行くんだ!
近くの公衆トイレに入って、例のボタンを押し、目を閉じる。だんだん慣れてきた、浮かぶ感覚。足が地面に着いたら目を開けて、服装と荷物を確認。うん、こっちでの普段着だ。理紗の格好も、健の武器もいつも通り。
知らないけれど見た事のある街並み。さっきまでいた場所だけれど、生き物の気配はしない。聞こえるのは、私たちの足音と息遣い、そして会話のみ。普通は静かすぎると小声になるけれど、それだと3人には聞こえないから普段通りの声量になる。みんなが急に黙った瞬間の静けさは、とても気味が悪い。
その静けさを紛らわせようと、どうでもいい会話を続ける私たち。いつ襲われるか分からないのに、気がついたらのんきになってしまっている。……まあ、私に何かあっても残り3人で何とかしそうな気もするけれど。やっぱり、人数というのは強い武器なんだなと思う。
そんなことを考えていると、予想通り、私たちの目の前にナニカが立ち塞がった。
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シュウ - 待っ…面白いです! (2021年9月3日 0時) (レス) id: f920010a89 (このIDを非表示/違反報告)
恋 - 読んでいて楽しいです!こんなおもしろい作品をつくってくれてありがとうございますっ!これからも応援してます! (2021年5月8日 20時) (レス) id: b0074abe1a (このIDを非表示/違反報告)
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