122 彼は?物知り ページ3
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【???side】
店に入ると、ほこりと古びた紙のにおいがした。ここは、この街唯一の本屋で、多くの古本とわずかな新書を売っている。
それほど治安も良くないこの街だから、本屋なんてのは閑散としている。いつでも賑わうのは居酒屋かバーか、その類。
久しぶりに来たが、相変わらず変わらない。それがオレには落ち着く。
ゆっくりと本棚の間を歩いて物色していると、奥の棚の前に小さな影が見えた。
(……子供?)
背伸びをして、上の方の本に手を伸ばしている。黒髪だが、少し赤みがかっていた。珍しい髪色だ。
そもそもこんな本屋に子供というのも珍しいが。
指先が震えるぐらい手を一生懸命に伸ばし、薄い本を取り出した。……『シンデレラ』。
「?」
視線に気が付いたのか、子供がこちらを見た。きょとんと瞬いた瞳と目が合ったので、軽く会釈をして通り過ぎる。
……読んでるのは、絵本だったな。あれぐらいの子供が読むには幼すぎるとも思うが。
そんなことを考えていたが、オレもすぐに本を見つけて開き、読み始めた。
それからーー1時間ほどしてから、だったか。
「なぁ」
ふと声をかけられて、横を見下ろす。赤みがかった黒髪。さっきの子供だ。
「何?」
読みかけのファンタジー小説のページに指を挟み、真面目な顔をしている少年に応じる。
「豚は人間の言葉を話せるのか?」
「は?」
呆けた声が出た。何を言ってるんだこの少年。
「俺がこの世界に来て出会った豚は、人間の言葉を話せなかった。もしかして、本当は話せるのか?」
からかうつもりなのかと思ったが、少年は至って真面目な顔だ。嘘をついているようには見えない。
『この世界に来て』というのも気になるが。
少年の手には『3びきのこぶた』。やはりこれまでずっと絵本を読んでいたらしい。
「……これは人間が空想して書いたものだから、現実にあることじゃない。わかるか?」
とにかく真面目に答えてみる。少年は口元に手を当てて考え、
「つまり、話さないのか」
真剣な声色で言った。
……容姿は端正ではあるが、少し幼げ。口調は老成している。身なりは普通。首には金色のネックレスをつけていた。
ーーどこから見ても普通……だと思うが、何か違和感を感じる。オーラ?いや、それよりも、何か根本的なところが違う、ような。
絵本の表紙を眺めていた少年が、ぱっと顔を上げた。
「物知りなんだな」
「え」
物知り……いや、あのな。
「常識だと思う」
「ほう。覚えておこう」
少年はぺこりと頭を下げて、また本棚の奥に消えた。
……なんなんだ、あれ。
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藤原 黎明 - 藍季さん» 藍季さん、優しい言葉をありがとうございます…!はい、無理せず色々のんびりやっていこうと思います!続編も出せましたので、是非に!楽しんでいただけたら嬉しいです(o^^o) (2020年3月2日 12時) (レス) id: ed76ed8c0c (このIDを非表示/違反報告)
藍季(プロフ) - お身体はもう大丈夫ですか…?無理をせず、健康第一で更新頑張ってくださいね。ずっと応援しています! (2020年3月2日 12時) (レス) id: 183bdc47fe (このIDを非表示/違反報告)
藤原 黎明 - 神織さん» 神織さん、コメントありがとうございます!お褒め頂いて嬉しくも、更新ナメクジで申し訳ないです(泣) たまに思い出したときにでも覗いて楽しんでくれたら幸いです! (2020年3月1日 23時) (レス) id: ed76ed8c0c (このIDを非表示/違反報告)
神織 - めっちゃ面白いです! 何で名作って更新停止されてるの多いんだろ(ボソッ (2020年2月9日 10時) (レス) id: a6841af2ef (このIDを非表示/違反報告)
藤原 黎明 - 樹-KI-さん» ありがとうございます!すみません、最近誤字りまくってます汗 これからも頑張ります〜! (2020年1月7日 13時) (レス) id: 2fc4486bb4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:藤原 黎明 | 作成日時:2019年6月7日 23時