色恋戦線 2nd【ars K.N】 (ページ34)

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「花嵐堂...」
「...花嵐堂、がどうした？」

何で今、あの店の名前が出て来るの。

「私、あのお店で働く前に和也くんを何度か見掛けたの」
「そうなの？」
「高3の夏休みに初めて見て、大学に入ってからも...」
「...うん。うん？」

話が見えなくて首を傾げると、Aが「だからね」とオレを見た。

「だから、私は花嵐堂に就職しました」
「え？」
「また、和也くんに会いたくて...あのお店で働けば会えると思って、だから就職しました」
「...マジで？」

彼女はコクンと頷いたまま俯いてしまった。

「......ストーカーみたいだよね...」
「ストーカー...では無いんじゃない？」
「......」
「だって別に、オレ迷惑掛けられてないし」

それどころか、誰かをそこまで好きになれるの？って

しかもその相手がオレって、凄くない？ってちょっと鳥肌立った。

「オレが店に来なかったらどうするつもりだったの」
「...勝負に負けたな...って落ち込んだと思う」
「就職なんて自分の未来に関わる事なのに、色恋ごときで決めちゃったらダメでしょ」
「でも、私は和也くんの居ない未来に興味なんか無かったから」

顔を上げたAに

素早くキスをすると、驚いたように目を開いたまま。

「珍しいね、いっつも目閉じちゃうのに」

唇を離して言うと、「だって...」と慌てたように首を振る。

「...あ、ってゆーか何で私が目を閉じてるの知ってるの？」
「オレいつも見てるもん」
「え！？目、開けてるの！？」
「開けてる。閉じる必要あんの？視覚遮断するの、勿体ないでしょ」
「...目は絶対に閉じるものだと思ってた...」

Aは絶望したようにそんな事を呟いて、オレの腕を掴んだ。

「あの...私の事、嫌いになった...？怖い？気持ち悪い？」
「怖くて気持ち悪いオンナにキスするような物好きじゃねぇよ」
「...ホントに？」
「ついでに言うと、嫌いなオンナには触れたくも無いってタイプですから」

そう言ってAの身体を、抱き締める。

「ずっと悩んでたの？」
「...うん...いつかは言わなきゃ、って...」

オレの背中に腕を回して、ギュウっとしがみ付いて来る。

「オレ、前に言ったでしょ？こんなオレを好きでいてくれてありがとって」
「うん...」
「今も、そんなにも好きでいてくれてありがと、って気分よ？」

「良かったぁ...」って言ったAの声が震えてるけど

こういう時にAは泣かない。

きっと彼女は今、顔をクシャクシャにして笑ってる。