色恋戦線 2nd【ars K.N】 (ページ3)

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「加藤くん、今それって手元にあるの？」
「あ...はい、帰りに投函しようと思ってたんで。ロッカーにあります」
「見せて貰っても良いかな」

オレの言葉に、加藤くんは少しだけ考えるように眉間に皺を寄せた。

あ...嫌だったかな？と思って、やっぱデビューした時に読むわって言おうとした時

「はい。お願いします」

そう、彼は言って頷いた。
それは何かを覚悟したような表情で、人に読ませるのがそんなに緊張するのかな？なんて、あの時は呑気に思ったっけ。

「良いな、先生。私まだ読ませて貰ってないんですよー」
「オレはお前みたいに読むだけじゃ無くて、誤字チェックもするからね」

オレがそう言うと、結城は腕をグーで殴って来た。

「お前、偉そうになったな！」

むぅ、っと不機嫌そうな顔してるキミが可愛くてもっと意地悪してやりたくなる。

加藤くんが原稿を取りにバックヤードに戻って、結城がレジに入ったから「じゃ、お前は仕事を頑張んなさい」と言ってオレはコーヒーを手にいつもの席に向かった。

暫くすると、加藤くんが茶封筒を持って来たから一応チェック入れる部分があった時の為にペンも借りておく。

「あの...」
「ん？」
「あ...いえ、何でも無いです」

加藤くんが、首を傾げて困ったように笑った。

封筒の中から原稿を出して読み始める。

『ピエロ』というタイトルは、内容をほんの少しだけ想像させる。

目立った誤字や脱字は無い。
言葉の使い方の間違いも無い。
情景描写は細かく景色が見える。

心理描写も、主人公の想いが痛々しく感じる程にリアル。

「......」

途中から、これは...と思った。

主人公は一人の女性に想いを寄せてるが、彼女には想い続けてる人が居る。
すれに気付いても諦める事は出来ず、どうせ叶わないのならせめて一番近くで...と彼女の友達で居る事を決める。
誰にもバレないように、心を押し殺して。

直向きに彼女の背中を押した彼の恋の結末は、彼女の恋が実る事で終わりを迎える。

「......マジかよ...」

想像してた以上に、それは道化師に徹した男の話だった。
好きな子が笑う為なら、自分はどんなに惨めでも構わないと。

ズキンと、頭が痛んだ気がした。

掌で額を押さえると、ジワっと汗が滲んでいた。

気のせいだと、思いたかった。
でも、そう思えなかったのは何もかもがリアル過ぎたから。

お花畑になってた頭ん中に、サラサラと砂が落ちて行く。

頭が重くて前髪をグシャと掴み、目を閉じる。