色恋戦線 2nd【ars K.N】 (ページ1)

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それはきっと、恋を覚えたての少年のように浮かれてたオレに、神様が見せた現実。

もう、手に入れるのも時間の問題だと思ってた。
後は自分が一息吹き掛ければ、彼女はオレの手の中だと、そう思ってた。

実際、そうだったんだろう。
彼女からの好意は心地良くて、計算尽くした駆け引きなんて必要無い位に真っ直ぐで。
オレの言葉で表情がコロコロ変わる彼女を見てるのは、正直、気持ちの良い時間だった。

きっと、オレも想いの中で溺れてたんだ。
ぼわぼわと水中で音が聴こえにくくなるように自分の周りにはキミの声しか無い程、夢中になってたんだ。

だから

忘れてた。

オレとキミの10歳の差は、いつまで経っても埋まらない。
キミが見たいと言う景色を、何年後でもオレが見せてあげられる約束は出来ない。

それでなくても、男の方が寿命短いってコト
...キミは知ってる？

秋だった。
いつもの日曜と同じように、オレは花嵐堂へ行く。

店に入ると、加藤くんが溌剌と迎えてくれた。

結城の姿は見えなくて、今日はカフェの方かなー...なんて思いつつ、文庫本のコーナーを眺めながら歩く。
この本買ったっけ...とか思って本棚に顔を近付けてみたり。

そんな風にゆっくり店内を歩いてると、その一角にしゃがんでこっちを見てるキミを見付けた。
カフェの方に居ると決め込んでたからちょっと驚いた。

「あ、居た」
「いらっしゃいませ」
「いらっしゃいました」
「フフッ」
「何よ」

笑ったキミをフザけてちょっと睨むようにすると、ううんって首を振る。

立ち上がったキミの前には、今作ってる最中って雰囲気のコーナー。

「何これ？」
「店長に頼まれて作ったんです」
「ふーん。『心温まる恋愛小説』ね」
「はい」

人恋しくなる秋にはピッタリのコーナーじゃない？
懐かしいキミの字で書かれたポップの一言コメントも、なかなかセンスが良い。

並べられてる本も、純文学からライトノベルまでどんな人でも興味を持てそうなラインナップ。
『スタッフ結城のイチオシ！』って紹介してる本は、桜井佳乃先生の本で何ともブレないキミらしい。

「お前らしいチョイスだな」
「えっ...私らしい...？」

ちょっと腑に落ちないような、どこか恥ずかしそうな顔。

「先生、今日はどの本にしますか？」
「んー...好きな作家の本も読みつくした感じなんだよな」
「じゃあ、とうとう新刊に手を出しますか？」
「とうとう？リッチに行っちゃう？」

アハッ、ってキミが楽しそうに笑う。