色恋戦線【ars K.N】 (ページ35)

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「あのっ...！ごめんなさい！」

キミが突然謝る。

「え？何がよ」
「柔軟剤なんて使わない方が良かったですよね！？」
「オレ、そんなコト言った？」
「...言ってないですけど...」
「言ってないのに、何でそんなコト思うのか分かんねんだけど」

ホントに何でそんな事思ったんだか分かんない。

「洗濯なんて、別にしなくて良かったのに」
「...でも濡れちゃってたし...」
「ありがと」
「迷惑...じゃなかったですか...？」

キミは何故だかずっと不安げで、きっと頭ん中で勝手にグルグル考えちゃってるんだろう。

オレの返事を待ってるキミの頬を、ムギュっと抓ってやる。

「ありがと、つってんのに何で迷惑なんだよ」
「......」
「『ありがと』、って言われたら『どういたしまして』」
「......」
「それが正しい掛け合いだ。分かった？」

柔らかい頬をムギュムギュして、その指を離す。
柔らかすぎてちょっと、何か、焦ったけど。
変なトコですげぇオンナを感じてしまう自分が情けない。

その内、キミは口数が少なくなった。

「眠いんでしょ？」

そう訊いても、何も答えない。

「起こしてやるから、寝てて良いよ」

そう言えば、キミは素直に目を閉じた。

外の明かりに照らされる横顔。

揺れる睫毛。
小さく開いてる口元。
静かに零れる息遣い。

理性を保つには目に見える諸々があまりにも、あまりにも美味しそうで

ギリギリの気持ちでキミの頭を抱き寄せ、自分の肩に導いた。

もしかしたら、キミは寝てないかもしれない。

だとしたら、この状況をどう思う？

オレの想いなんて、想像もしてないでしょ。
あれだけ、酷くフったもんね。

自分勝手だなと思うよ。

それでも、止められなかったのはオトコの弱さだと笑って欲しい。

ふと、我に返ったのはキミをマンションに送り届けた時だった。

そうか...さすがにオレ、親御さんに挨拶できないわ...。
まさか元担任が酒飲ませたなんて、驚くどころの話じゃないだろう。

オレの立場は、そーゆーモンなんだ。

一人戻ったタクシーの中、この想いとどう付き合ってけば良いのか考えた。

「ねぇ、運転手さん」
「はい？」
「さっきの子とオレ、どんな関係に見えた？」
「え？」
「遠慮無く言ってよ」
「...女性が『先生』と呼んでらしたので、家庭教師さんかな？と」
「オレ、学生に見える？」
「はい。お似合いでした」

その言葉が本音かどうかなんて、どうでも良くて。
少しだけ、気が楽になったんだから単純だなと思う。