色恋戦線【ars K.N】 (ページ31)

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その時のオレの気持ちを説明しろと言われると、難しいかもしれない。

予想もしてなかった事が起こると、人間は一瞬、思考が止まってしまうらしい。

「うわ、ビックリした...」

仕事を終えて校門から出た所に、キミが居た。

「...あ、...あの...」
「何やってんのよ、ビビるわ」

オレの記憶では、キミは卒業してから一度だって学校には来てなかったはずだ。
文化祭なんかの時にキミが仲良かった子達が遊びに来てても、キミの姿は無かった。

「えっと...忘れ物を届けに...」
「忘れ物？」
「はい...」
「オレの？」
「そうです」

忘れ物...何だ？

こうやって学校の前で制服を着てない女子と喋ってるとやっぱり目立つみたいで、帰って行く生徒達に冷やかされる。
いちいち相手するのも面倒になって来て、チラっと見るとキミも居心地悪そうな顔してて。

だからって訳でも無いけど。

だからって訳でも無いんだけど。

「飯でも食いに行く？」

オレが腹減ってたから。って事にしとこうか。

「...めし...」
「駅前のファミレス...は生徒が多そうだから、裏通りの居酒屋でも良い？」
「...良いんですか？」
「だってここだと落ち着かねぇし。何、忘れモン？わざわざ届けてくれたんだし。一杯、奢るわ」

『一杯、奢る』ってのは、今自分が誘ってるのは『大人』なんだと自分に言い聞かせたかったのもあるし

夜桜の下、キミと酒の話をしたなぁ...と思い出したから。

うちの教師陣行きつけの居酒屋でキミと向かい合って座るのは、不思議な感じがした。
キミはキョロキョロと店のあちこちに視線をやってる。

「オレは生で、お前は何飲む？」
「私も生ビールで」
「ンフフッ、マジか」
「マジですよ？」

絶対これ、嘘だな。
好きな奴がこんな覚悟決めたような顔で頼まないでしょ。

案の定、ジョッキに口をつけたキミは眉間に皺を寄せて
口の周りについてる泡を舐め取っても、やっぱりしかめっ面。

「お前、ビール嫌いだろ」
「えっ！？そっ..んな事も、無いってゆーか...」
「ビール好きなヤツはそんな顔しねぇわ」
「そんな顔って...」

ずーっと眉間に皺寄ってる。

その顔が、...どうにも可愛くて

思わずその眉間に、人差し指で触れた。

触れてる部分は、ほんの少しなのに

指先が恥ずかしい位、浮かれてる気がして

「皺、寄ってんの。ここ」
「...皺...」
「ンフフ、苦いんでしょ？オレが飲んでやるから、甘い酒頼め」

唇をキュっと噛んだキミが、メニューをジっと眺めた。