色恋戦線【ars K.N】 (ページ29)

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ちょっと様子を見てたらキミは勢いよく立ち上がって、振り返った。

オレを見て、ポカンと口を開ける。
ちょっと間抜け。

「ガキか、お前は」
「...先生...？」
「何やってんのよ」
「先生こそ...何やって...」

また空が光った。
キミは「ヒィィ！」と声を上げて耳を塞ぐ。何だそれ。

あ...そう言えばオレ、傘...

うわ、傘も持ってないのに追い掛けて来ちゃったし...！
どうする、これきっとすぐに雨降って来る。

駅まで走れば、もしかしたら間に合うかもしれないし
方向転換したって事は、もしかしたらキミは花嵐堂に戻ろうとしてたのかもしれない。

だけど、キミの腕を掴んでしまったのは

自分の為だ。
言い訳も出来ない。

オレが、キミと一緒に居たかったからだ。

「なっ...何...！？」

キミが驚いてるのが、声だけで分かる。
そりゃそうだ。

とにかく、何も勘付かれないようにキミを引っ張って行く。

時々鳴る雷に、いちいちヒィヒィ言ってるキミが可笑しくて

...可愛くて。

その内、やっぱり空は雨を落として来た。

それはすぐに大雨になって、オレ達を濡らす。

「結城、走れ！」
「えっ！？」

冷たい雨が自分の熱を冷ましてくれてるかと思ったのに、何だかずっと顔が熱くて。

「これ、被っとけ」

羽織ってたシャツを脱ぎキミの頭に掛けてやると、立ち止まったまま動かなくなっちゃったからちょっと笑いながら「ほら、走れ！行くぞ」と先にオレが走り出す。

ばあちゃんちに着くと、キミは不思議そうな顔をして

ここに車停めてるからって説明すると、納得したように門扉をくぐった。

あの日、後部座席のドアを開けたのは、わざとだった。

今、助手席のドアを開けたのは、無意識。

オレの中で、『助手席に乗せてはいけない存在』では無くなってたんだ。

それをキミが気付いたらどうしようと思ったら、妙に焦って来て

なのにキミは全然車に乗ろうとしないし、「まさか警戒されてる！？」とかオレが考えちゃったの知らないだろ。

「あぁもう！早く乗れって！」

背中を押すとシートが濡れるだの何だの言ってる。
でも警戒されてる訳じゃないのかって、ちょっと安心した。

「送るわ」
「...え？あの...」
「なに」
「悪いです...そんな事をさせるのは」
「じゃあお前は、この雷雨の中を歩けるって言えんの？」

キミはオレが貸したシャツをギュウっと握り締める。

「雷、こえぇくせに」

キミを送る為の理由は

キミと二人で居る為の口実。