色恋戦線【ars K.N】 (ページ13)

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ある女子生徒の話をしよう。

どの年の卒業生にも、特に印象に残ってる生徒が1人2人いるものだ。

成績が優秀で印象に残る生徒。
部活動で活躍してて印象に残る生徒。
手をかけられすぎて印象に残る生徒。

例えば、相葉雅紀という男子生徒は問題児として印象に残っている。

とにかくいつも透けてるような茶色い髪で「ミルクティー色なの！」なんてフザけた事を言って、何だか痛そうな場所にピアスを開けて。

毎日は学校に来ない。
来ても必ず遅刻。
遅刻する上に、授業をサボる。

その割に不良っぽさが薄い。
妙に素直で人懐っこい。
不思議な奴だった。

そして、その相葉の二学年上に居たのがこれから話をする女子生徒だ。

初めて話したのがいつだったのかは、忘れた。

でも担任を持ってる訳でも授業を持ってる訳でも無いのに、よく話し掛けて来るようになった。
まぁでも、そんな生徒はいくらでも居る。

自分で言うのもおかしいけど、オレは他の先生より話しかけやすいんだと思う。
童顔だし。

三年でその生徒の担任になった最初の日。

自己紹介の時に、オレが毎年訊いてる『好きなもの』

その生徒が印象に残る生徒になったのは、間違い無くその時だ。

「結城A」
「はい」

手を挙げ、返事したその声は他の生徒達よりも小さかったように思う。

「好きなモンは何ですか？」

オレの問い掛けに視線を上げた彼女は、目の中をゆらりと一瞬揺らして

「...日本語が、好きです」

今まで聞いたことの無い答えを、出した。

「へぇ。珍しい答えだな」

そんな風に答える生徒が居るのかと、嬉しくなったのを覚えてる。
『国語』が好きとか『読書』が好きと答える生徒は結構いたけど。

「オレも好き。日本語は美しいよな」

ポン、と彼女の頭に手を乗せる。

同士を見付けた気分だった。

それだけだ。

彼女に手伝いを頼んだのは、目が合ったからだ。
クラス中がわざとらしくオレから目線を逸らしてる中で、彼女だけがこっちを見ていた。

ご褒美だと紅茶のペットボトルをあげたら、物凄く喜んでいて

こんな物でそんな幸せそうな顔をするのかと、可笑しくなった。

そんなにミルクティーが好きなのか、と。

なのになかなか蓋を開けられないとか、コントかよ！と突っ込みたくなる。

上から目線で「秘書になってあげても良い」なんて言う生意気な彼女が、面白かった。

そんなにミルクティーが欲しいのか！って、やっぱまだ子供だなって思ったんだ。