美少女に成り代わった私は黒を歩く２【文スト】【太宰治】 (ページ16)

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第六十五話「悟られてはいけない」ページ16

結局､その日は収穫が無かった｡

甘味処で江戸川乱歩と福沢諭吉に逢っただけ｡

まぁ､それも嬉しかったのだが｡

『……そりゃあ街を歩いただけで鼠に逢えるわけないよね』

何か判りやすいアクションを起こさなきゃ｡

……判りやすいアクションって何だろ？

爆弾仕掛けるとか？……何処に？？

『はぁあ､わかんない』

────ピロンッ

聞きなれない音がしてビクリと肩が揺れる｡

何の音？何処から聞こえた？

音のしたであろう方へ視線を向けた｡

そこには自分のパソコンが一台､電源が付いて開いていた｡

『……電源､付いてたっけ』

恐怖心と戦いながら画面を覗き込む｡

すると一通のメールが来ていた｡

となると､先程の音はメールの受信音？

否､それは可笑しい｡

メールが来ても音がならないように設定している筈なのに｡

『……迷惑メールとか？』

カチリとメールのマークを開いて件名を見る｡

そこには“お久しぶりです”の文字が｡

『……え』

中を開くとたった二行の文｡

内容は……

『貴女の×月○日､日付が変わる頃に浜辺で待っています｡
お逢いできるのを楽しみにしています｡

────フョードル・ドストエフスキー』

すぐさまメールを削除した｡

鬼魅が悪かったし､太宰に見られたら面倒な事になるからだ｡

けれど……

『……好都合だ｡行ってやるよ』

またとないチャンスに私は自然と口角が上がる｡

しかも日付けが変わった日はこの子の誕生日だ｡

玄関でガチャんっと扉の閉まる音が聞こえた｡

私はパソコンを閉じて玄関へと続く廊下の扉を見つめた｡

｢ただいまー！A｣

『おかえりって……ここは太宰さんの家じゃないでしょ？』

可笑しくて､ふふっと笑う｡

悟られてはいけない､この人には絶対に｡

太宰と言葉を交わしながら私は台所で夕食の準備に取り掛かったのだった｡

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