漆黒の狗は黒の時代でも困っていたそうです5【文スト】【芥川成り代わり】

第百九十二話『褒メラレテモ』 ページ35

『……形勢逆転だ』




ニヤリと笑った時だ｡
後ろから自分の名を呼ぶ声が聞こえて振り返る｡




『……織田作？』




……その隙をミミック長は見逃さなかった｡
痺れて動けない筈の右手で落ちていた銃を叩いて左手の方へ
動かした｡




『……っ！？』




芥川の右足が撃たれた｡
全身に痛みが走り､羅生門が緩んだ｡




織｢芥川！伏せろ！｣



『……っ！』




思いっきり姿勢を低くした瞬間､銃弾が芥川の真上を通った｡
しかしその弾はミミック長が避けた為､当たらなかった｡




織｢……！｣




数弾､ミミック長と織田の攻防が続いた｡

それを見て芥川は確信した｡




『……矢張り､同じ異能』




互いに先を読んで銃弾を躱している｡


何か嫌な予感がする｡


何が？と聞かれてもはっきりとは云えないが……




『織田作！一先ず撤退するぞ！』



織｢お前は先に行け！早く！｣



『しかし織田作！奴は……』




芥川の叫びも虚しく織田は人工林の中へと走って行った｡
そしてミミック長も後に続いて行ってしまった｡




｢芥川さん！今のうちに本部へ！｣



｢足を怪我している！誰か担架を……｣



『そんなの要らぬ！僕は､彼の人を……織田作を……！』




黒服が芥川を取り押さえるが尚も暴れる｡


ミミック長も自分の異能力を熟知していた｡
いくら織田作であろうがあの男を相手にするのは骨が折れる…




『離してくれ！僕が行かなければ……！』



織｢芥川｣




ポンッと頭に温かい手が乗る｡




『……織田､さ……く』



織｢俺なら大丈夫だ｡此処にいる｡｣




じっと織田作を見詰める｡

怪我もない､顔色がいい｡




織｢ジイドはお前の仕込んだ毒で身体が云うことを聞かなくなり
ミミック兵と共に早々と退却した｡｣



『……ジイド？』



織｢ミミック長の名だ｡｣



『……そう……か』




ふらりと力が抜ける｡
ずっと気を張っていた為､疲れたようだ｡
普段はこんなにも疲れないのに……




織｢彼奴がお前を褒めてたぞ｡あの毒にはやられたと｣



『……敵に褒められてもな』




痺れ毒をミミック長の銃弾を避けて回っている時､
落ちていた一つの銃にあの毒を塗りつけたのだ｡




『……上手くいって善かった』



織｢お前は無理し過ぎだ｡また太宰に怒られるぞ｣



『……あっ』




慥かにそうかもしれない｡
またあの包帯上司に怒られる｡




織｢……足の怪我は云い訳できんな｣




芥川の顔から血の気が引いた｡


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