昇る魚 (ページ42)

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「結局今自分が与えられた事に対して全力で向き合うしかないんだ。

あんな売られ方をして、デビューまで必死に頑張ってきたのに目標としてたデビューを達成してもこれかよってモチベーションが下がったメンバーもいた。もうやめたいって思っていたメンバーもいたかもしれない。

俺はずっとやりたかったアイドルって仕事は失いたくはなかったからそんなメンバーの愚痴を聞いたり、少しでも仕事が楽しくなってモチベーションが上がるように励ましたりもした。

同時に自分が生き残るにはどうすればいいか常に考えた。それが意外と自分のすぐ周りにあったアニメに助けられたんだけどね」

アニメ、と言った時目の前の佐久間をまっすぐ見つめて軽く小さく笑う。

佐久間は酔っ払った顔を赤らめて笑うわけでも元気なさそうな表情をするわけでもなくただただ感情の読めない顔で話を聞いている。

お互い自分と誰との関係性について話しているのか。

固有名詞を出さないのがこの話においての優しさだ。

「結局ね、嫉妬や劣等感とか一言では言えないどす黒い感情－－－－佐久間は違うかもしれないけど－－－－と向き合うにはそのどす黒い感情に呑まれず今自分がやるべき事を粛々と頑張るしかないんだと思うんだ。

え？そんな単純な事？って思うかもしれない。

そのどす黒い感情の渦中にいる時は気づかないと思うけど自分自身が努力する事で気を紛らわしてどうにかして自分の心を安心させるしかない。

俺の場合はメンバーのフォローが枠を超えてチームのためになったってみんな思ってくれてて、それもあってずっと隣にいた人も戻ってきた…というより見捨てなかったのかもしれないし、アニメの仕事が成功したからそう思えただけかもしれない。

ただ自分が粛々と地道にコツコツ努力している姿はきっと誰かが見てるし、もし仮に遠くへ行ってしまった人が戻ってくれなかったとしても必ずその努力が未来の自分の助けになると思うから」

お酒のせいだろうか、話が少々長くなってしまった。

先輩の長い話…というより説教になっちゃった！？これ？？

だけど心の底から佐久間には頑張ってほしいと思うんだ。だからこそ、

「これがほんの少し先の未来を歩んだ先輩のお言葉」

説教っぽくならないようにイタズラっぽく笑ってみせてあの遠い日の記憶に思いを馳せる。