昇る魚 (ページ35)

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「ほら、玉もそう言ってるし早速いけばいいじ…フガッ」
「ニカ本当にうるさい！そうだよね、玉！宮っちって本当に優しいもんね」

ついに千ちゃんも我慢がならなかったのかニカのおしゃべりな口を両手で塞いで無難な会話の流れに引き戻そうとする。

千ちゃんも俺と同じ光景が過っているのだろう。

俺としては塚ちゃんや、佐久間以外の宮田会のメンバーと同じように佐久間と接しただけなのにあんな東京から離れた所でまさかバチ切れられるとは思ってみなかった。

もちろん職業としてのパフォーマンスの一環だろうけど、たまたま戦友とも言えるグループよりも後輩の方が言いやすかっただけかもしれない。

あの後俺が浮気して玉に殺される設定の作品が爆誕したのは全部偶然…と思いたい、思わせてくれ。

あまり深く考えてもしょうがない事だけど佐久間の何が玉をこうさせたのだろう。

「玉……」

玉はひとしきり言いたい事を言い終えると、くるりと背を向けてどこか違う所に行こうとしていた。

待って、と離れるその手を取りたかったけどなんだか取りにくくてもどかしかった。

「佐久間と飲み終わったら玉の家行くから！！！」
「...そんな事しなくていーよ」
「家が嫌なら終わったら電話するから！！！」

そう強めに言うとやっと玉は振り返ってくれてまるで試すかのようにこちらをチラッと見る。

「たーーのしんでーーー」

と素直でわかりやすい性格な玉は全然楽しそうじゃない声色で手をひらひら振りながらいなくなってしまった。

さすがにもう千ちゃんから解放されたニカは毎度のことながら俺たちの関係を怯えつつ興味を隠しきれない例のあの表情で面白そうに俺達を見て、千ちゃんは半ば呆れながらため息をついてた。

どうして佐久間とのサシ飲みを行かないっていう選択肢をしなかったんだろう。

去ってしまった玉のあの今にも涙が零れ落ちてもおかしくなさそうな潤んだ瞳を思い出し呆然とする。

デビュー後の最近の佐久間の環境の変化。佐久間の周囲の変化。雑誌のインタビュー。元気のない時に俺の話題を出す佐久間。

なんとなく今どうしても佐久間に伝えなきゃいけないような事がある気がしたんだ。

思い出すのは今よりほんの少しだけ若かった遠い日のあの記憶。

どうかあの時の記憶をそのままに、決して去りゆく日々達の幻影の一つにしないでほしい。

そんな他人のことなのに抱いてしまう身勝手な感情で玉を傷つけてしまっていいのだろうか。