42 ページ42
．
休日出勤から帰ってきた母親には「チビが寝てるから」と事情を説明して、あまり物音を立てないようにしてもらった。
場地自身も畳から体を起こし、血のついたTシャツは洗濯機へ、血のついたティッシュの山はゴミ箱へと押し込む。
そして机の上に広げられた数枚の便箋を見つけると、まだ途中であった手紙の存在を思い出し、どかっと椅子に腰を下ろした。
【しみにしています。それと、この手紙を書いてるときに、チビがおし入れからおちて、はな血を出しました。ティッシュをはなに入れてやったら、とってもブサイクになったので、わらってやりました。そしたら、アイツもオレの上でわらってました。アイツはやっぱり、泣いた顔はにあわないです。だからこれからもオレがアイツをわらわしてやりたいです。】
チラリと視線を移した先には、畳の上でスースーと寝息を立てるAの無防備な姿があった。少しの間その姿を目に焼き付け、場地はもう一度手紙に向き直る。
……Aなら、一虎を変えられたりするんだろうか。
【いつか、一虎にも会わせたいです。】
最後に彼が【場地より】と付け加えたところで、視界の端がモゾモゾと動くAの姿をとらえる。
顔を向けると、既に少女の目はぱっちりと開かれていた。寝起きが良いところに限り保護者似ではないようだ。
目を覚ましたAはとてとてと場地の勉強机に近づくと、手元に広がる便箋に視線を落とした。
比較的平仮名が多いので、意味が分かるかどうかは別として、Aでもある程度は読めた。ただ一つを除いて。
「……これ、これ」
「んあ？それは【カズトラ】って読むんだよ。オレのダチだ」
「か、ず、とあ？」
「“あ”、じゃねぇ。“ら”、だ。“ら”」
「とら。……とら、は、ばじの、だぁじな、ひと？」
「あぁ、まぁ、そうだな。アイツは大事なやつだ」
Aがあまりにも興味津々に手紙を見つめるものだから、ついもう一枚便箋を出してやって、一虎宛に手紙を書かせてやる場地。
自分以外の人間が一虎に手紙を書いている姿を見るのは、これが初めてのことだった。
誰かが一虎のことを思ってくれている。たとえそれが自分たちと十歳近く違う子供だとしても、場地は「なんか良いな」と思う。その【なんか】がなんなのか。それはまだ分からない。
「……とら、てがみ、よろこぶ？」
「は？あたりめぇだろ。オマエが頑張って書いたんだぜ？」
佐野家へ向かう道すがら、一緒に一虎宛ての手紙を投函したのは、二人だけの秘密。
．
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2702人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「東京リベンジャーズ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
レモン - サイコーすぎんだろ‼️ 応援してます😆 (2022年7月2日 13時) (
レス) @page50 id: 97f09e59d6 (このIDを非表示/違反報告)
無塩バター(プロフ) - ぺたごんさん» ありがとうございます！今日中に続編に移行するつもりなので、続編もよろしくお願いします！ (2021年11月13日 8時) (レス) id: aad7259adc (このIDを非表示/違反報告)
ぺたごん - すごくすき愛した だぁじに悶えてます 続編待ってます！ (2021年11月13日 1時) (レス) @page50 id: 660f048392 (このIDを非表示/違反報告)
無塩バター(プロフ) - ただのバカですさん» そうです三ツ谷くんです（笑）多分本文でも書くと思うんですけど、みつや→みつゃ→みちゃ 的な流れから、みちゃになりました。続きものんびり頑張ります！ (2021年10月23日 0時) (レス) id: aad7259adc (このIDを非表示/違反報告)
ただのバカです - みちゃ？あっ、三ツ谷くんの事ね。え！？可愛くねぇ？みちゃだよ？胸取れるわ。ムフフ続き楽しみに待ってます。 (2021年10月21日 7時) (レス) @page45 id: acf5fa610c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
