敵の姿−13− ページ43
Aの真剣な瞳に、吐き捨てるように呟く。
「……断る」
こんな未来ある学生をこれ以上、俺の復讐に巻き込むわけにはいかない。
すると、Aは頰を膨らませると拗ねたように言った。
『断るのを断ります』
「お前、意外と強情だな」
『わたし……中堂先生の側にいたいんです』
そう言った彼女の瞳には涙が溜まっていた。
「あー、うぜぇ、泣くな!……もう、勝手にしろ」
『……は、はいっ』
「大体俺の右腕なんて生意気な事は国家試験受かってから言え」
『ふふっ、はい。必ず合格します』
涙を零しながらも笑うAに、最初は同情されてるんだろうと思ったし、彼女の人生を変えてしまったみたいで負い目もあった。
でも……。
『中堂先生、肉じゃが好きですか?』
「ん?ああ、まあ嫌いではない」
『作ったんです!是非召し上がって下さい』
その味が少し、夕希子のに似ていた。それが懐かしくて、切なくて、だけどやっぱり美味しくて。
自然と「美味い」と呟けば、Aは『また作りますね』照れたようにはにかんだ。
『中堂先生!国試無事に受かりました!』
「そうか、よくやったな」
『えへへ、中堂先生の右腕に一歩近づきましたね』
天真爛漫に笑う、その無邪気さに不思議と目を惹かれた。
『中堂先生……今日、一周忌ですね』
「ああ」
夕希子の墓の場所は知らないが、Aは毎年花を買って生けては黙祷していた。
絵本を読んで、泣いては両手を合わせて。
夕希子の死に真摯に向き合うその姿に不思議と嫌な気持ちはしなかった。
『中堂さん、こういうご遺体の特徴の場合は……』
Aは勉強熱心で、いつも真剣に法医学に向き合う姿勢に、右腕になると宣言したのは適当な気持ちではなかったんだと再認識させられた。
『中堂さん、大学のツテで入手しました、赤い金魚の写真です!』
「ほんとか!?」
Aはどんな時も惜しみなく協力してくれた。
いつしか同情されてるだとか、そんな事どうでも良くなってAが傍に居ることが心地良く感じている自分を否定出来なくなっていた。
だけど、Aの将来や自分の置かれた状況を考えると、好きだとか付き合おうなどと関係を縛るような事は言える訳がなくて。
それでもAは俺の隣でいつも笑顔で居てくれた。それに甘えて俺は……情けないほど狡い。その彼女のお人好しさにつけ込んでAを手放す事はしなかった。
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鞠香(プロフ) - ともみさん» 嬉しいお言葉ありがとうございます!頑張ります! (2018年3月19日 19時) (レス) id: 3fdde94521 (このIDを非表示/違反報告)
ともみ - おもしろい!更新楽しみにしてます! (2018年3月19日 2時) (レス) id: f743b881db (このIDを非表示/違反報告)
鞠香(プロフ) - 青龍 葵さん» こんにちは。ドラマの疾走感凄かったですね!完結はもう少し先になりますが、それまでお付き合い頂けると嬉しいです!優しいお言葉ありがとうございました。頑張ります! (2018年3月17日 18時) (レス) id: 3fdde94521 (このIDを非表示/違反報告)
青龍 葵(プロフ) - あっという間にドラマ終わっちゃいましたが、どのような最後(完結)になるんだろう?中堂さんとの関係は?とか思いながら、まだまだ完結は先かと思いますが無理のない程度で頑張って下さい!更新、楽しみにしてますw (2018年3月17日 4時) (レス) id: 7069733e86 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:鞠香 | 作成日時:2018年3月11日 14時