第8夜 ページ8
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「お疲れさまでしたー」
ロケ(って言っても局でやったから、撮影?)が終わって、楽屋へ戻ろうとしたとき。
「伊野ちゃん、話あるんだけど」
大ちゃんに呼び止められた。
面倒くさいし、体痛いし、逃げようかなって思ったけど、腕を掴まれたら抵抗はできない。
知念は…、どっか行っちゃった。
「今日のロケ、全然集中できてなかったじゃん。やっぱ体、大丈夫じゃないじゃん」
「…ごめん、次からちゃんと集中する」
仕事熱心な大ちゃんは、おれのロケ中の態度が気に入らなかったんだな。
さすが、仕事に対する情熱は山田に負けてない。
「違う、そういうことじゃなくて。本当にやめろって言ってんの」
なかなか大ちゃんらしくない、荒い言葉遣いだった。なにがそんなに気に食わない?
「大ちゃんに関係なくない? おれと山田のことじゃん」
そう言うと、大ちゃんは少し苛立ったようにこちらを見つめた。
「大体さぁ、なんで伊野ちゃんなの? どうせそういうことするなら、好きな人との方が良いって思わない?」
「……、思わないよ。おれじゃなくてもいいのかも、とは思うけど」
山田が求めてるのは、ストレスをぶつける相手。その役を好きな人に任せるのは、さすがに馬鹿でしょ。
「じゃあ伊野ちゃんさ、山田のこと好きじゃないんだ?」
「当たり前でしょ、なに言ってんの」
まるで変化球みたいな質問で、なんでおれが山田のこと好きなんだよって思った。
でも、それで大ちゃんは機嫌が良くなったらしい。
「じゃあ伊野ちゃんさ、」
大ちゃんがいたずらっ子みたいな顔で笑う。あぁ、なんか変なこと企んでるな。
「俺に抱かれてよ」
「……は? やだ」
「なんで? 好きじゃない山田に抱かれてるんだからいいじゃん」
確かに…。なんて納得しちゃったおれの負け。
そう言われたら、なにも反論できない。
おれが押し黙ったのを肯定と見たのか、大ちゃんは「今日、俺ん家ね?」って言ってどっか行った。
おれ、男なんだけどなぁ…。なんで男に誘われちゃうわけ…?
内心乗り気じゃなかったけど、反抗するのも面倒くさかったから痛む腰を撫でて楽屋に戻った。
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作者名:鎖空 | 作成日時:2017年3月21日 13時