いくつもの夜を (ページ36)

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第36夜ページ36

ym side

「……やまだ、どいて、」

僅かに震えた声と、細くて頼りない腕が俺の腕に絡む。

それにどうしようもなく罪悪感を覚える俺は、一体どうしたんだろう。

これまでは体だけの関係を求めて、もっとひどいことをしてきたはずなのに。

「……やまだ？」

なにも言わない俺を心配してくれてるであろう伊野尾ちゃんの声。

澄んだ瞳に心が揺れて、なんだか胸が痛んだ。

その顔を見ているのが辛くて、伊野尾ちゃんの肩口に顔をうずめた。

「……どうしたの？」

決して責めたりしない、優しい口調。

伊野尾ちゃんは誰にだって優しいけれど、その優しさが俺以外に向いてほしくないと思ったのは初めてだった。

「……あ、」

あぁ、もしかして俺って伊野尾ちゃんのことが好きなんじゃないかって。

不意にそう思ったのは、これまでの経験と、これまでに感じたことがないくらい強い、伊野尾ちゃんへの気持ち。

「やまだ……？」

真っ白なほっぺたを両手で優しく包む。

少し顔を近づけると、伊野尾ちゃんは俺の手を上から包んで、目を閉じた。

こんなときでさえも俺を拒絶しない伊野尾ちゃんに自惚れそうになりながら、顔を近づける。

否、近づけようとした。

「りょーすけ……？」

「……知、念？」

その声にすぐ起き上がると、ドアの前に立ち尽くす知念と目があった。

大きな瞳にはいっぱいに涙が溜まっていて、その頬には泣いた跡もあって。

だから、俺は抱き付いてくる知念を拒絶できなかった。

「伊野ちゃん、行こ」

「だいちゃん、なんで、」

なぜかドアから知念の少しあとに入ってきた大ちゃんは、伊野尾ちゃんを立ち上がらせて玄関へ引っ張っていく。

「伊野尾ちゃっ、」

「山田は、もうちょっと頭良いと思ってたんだけどな」

白けた目で見つめてくる大ちゃんに何も言い返せなくて、大ちゃんと伊野尾ちゃんは部屋を出ていく。

「……だいき、」

腕の中の知念が少し顔をあげて。

切なそうに、そう呟いた。

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