いくつもの夜を (ページ35)

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第35夜ページ35

ym side

「わー、やっぱり山田の料理って上手だねぇ」

夜8時。ここは、俺の家。
机の上に並べられた料理を見つめ、伊野尾ちゃんが小さくため息をつく。

「そう？早く食べよ、冷めちゃうし」

俺がそう促すと、はーいって従順に返事をした伊野尾ちゃんが、いただきます、と声を出す。

俺もそれに続いて、ご飯を食べ始める。

「ところで伊野尾ちゃん」

「ふぁい？」

伊野尾ちゃんは、もぐもぐと口を動かしながら首をかしげた。

「伊野尾ちゃんって、大ちゃんのこと好きなの？」

「！？」

驚いた拍子に伊野尾ちゃんは、小さく咳き込む。
そんな伊野尾ちゃんに飲み物を渡す。

「ち、違うからっ！あの、大ちゃんはそーゆーのじゃないから！」

ぱたぱたと赤くなった頬を冷ますように手であおぎながら、伊野尾ちゃんは俺が渡したビールを飲み干す。

「じゃあ、誰が好きなの？」

いつもへらへらしてる伊野尾ちゃんにあんな顔をさせちゃう人、純粋に興味があった。

「え、え、あの、えーと……お、おれ帰る！あんまり長居するのも悪いし！」

「今来たばっかじゃん」

「で、でも、山田も明日早いでしょ？それに、オフなんだからゆっくりしなきゃ！」

飲み干したビールのせいなのか、伊野尾ちゃんは普段とは似ても似つかない早口で捲したてる。

「ちょっと待ってよ伊野尾ちゃん」

「へ、ぁ、わっ！」

俺が掴んだ手首は特に抵抗もなく、体ごと俺に倒れ込んできた。

「や、やまだ？やめてよ……」

床と俺の間に挟まった伊野尾ちゃんは、涙の溜まった瞳で俺を見上げる。

「やだ」

伊野尾ちゃんに切なそうな顔をさせる人に持ったのは、純粋な興味なんかじゃない。

ただの独占欲だった。

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