いくつもの夜を (ページ34)

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第34夜ページ34

ym side

「へあ、おれ？知念じゃなくて？」

今日、俺の家来ない？
そう言って誘うと、伊野尾ちゃんは面白いぐらいに動揺した。

「ね、山田、誘う人間違えてる？おれ、伊野尾慧だよ？知念じゃないよ？」

「うん、知念じゃなくて伊野尾ちゃんに来てほしいんだけど。何か予定あったりする？」

今日の夜って突然過ぎるし、急ぎの用でもないわけだし。

どうする？って首をかしげた俺に、伊野尾ちゃんは少し迷ったように、

「……行ってもいいなら、」

と、小さく呟いた。

「もちろん！じゃ、待ってるね！」

ひらひらと手を振ってその場を離れようとしたその時、伊野尾ちゃんの訴えるような視線に気づく。

「なに？」

「いや、おれなんかが行ってもいいのかなぁ、って」

知念に悪い気がする、なんて小さく呟いた伊野尾ちゃんは目を伏せた。

「それもそっか、じゃあやめる？」

ぴくりと小さく肩を震わせた伊野尾ちゃんは、曖昧にうなずいた。

「……なんて、言わないけど。付き合ってるから知念が最優先、ってわけじゃないし、ね？」

伊野尾ちゃんの顔を覗き込むと、うんっていつもの顔で笑ってくれた。

「じゃ、今日の夜ね。楽しみにしてる」

「ん、誘ってくれてありがとね」

ばいばーい、と手を振ってくれた伊野尾ちゃんに手を振り返し、俺は楽屋を出る。

なんだか伊野尾ちゃんの笑顔を見て、さっきよりも機嫌の良い自分に気づかないままで。

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