いくつもの夜を (ページ32)

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第32夜ページ32

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「っくしゅん！」

仕事終わり、楽屋のソファでくしゃみをかましたおれを大ちゃんがクスクス笑う。

「なにその可愛いくしゃみ」

「うっせ、……っくしゅ」

今度は少し大きい声で笑いながら、ティッシュを手渡された。

週末でみんな疲れているのか、仕事が今でも誰も楽屋から出ていく様子はない。

「なに、なんで大ちゃんのくせにティッシュ持ってんの」

おれが悪態をつくと、大ちゃんはふふんと得意気に鼻の下を人指し指でこすった。

「山田に振られた伊野ちゃんが泣いて、その後どうせ俺のハンカチで鼻かむと思って持ってきたんだよね」

「告ってないし振られてないし泣かないし泣いたとしても大ちゃんのハンカチなんかで鼻かまないから」

ふん、って顔を背けると、知念と仲良さげに喋る山田の姿。

「それより大ちゃん、知念のこと好きなんでしょ。山田からひっぺがしてよ」

「俺、知念のこと好きなんて言ってないけど」

「……めんどくさい五歳児め」

「小声で悪口言うのやめて！それに、そんなに山田が好きなら自分で行けばいいのに」

大ちゃんの言葉にぶうたれた顔をしてみると、大ちゃんが吹き出す。

「まるで恋する乙女だね、伊野ちゃん可愛いー。ねー、山田もそう思うー？」

は？なんで山田に話振った？

そう思ったのもつかの間、ばっちりと山田と目が合う。

「かわいいかわいい。ま、大ちゃんも幼稚園児みたいでかわいいけど」

「お前、なにおっ！」

その騒ぎに気づいたメンバーも加わって、楽屋は少しうるさくなる。

「伊野ちゃん、」

「んー」

騒ぎを起こした張本人である大ちゃんが、その輪の中から抜け出してこちらに来た。

「良かったね、かわいいって言ってもらえて」

「……別に、かわいいって言われても嬉しくないし。どうせふざけてたんでしょ」

ふん、ってまた顔を背けると、また山田と知念が目に入った。

ただし、なんだか知念は怒り気味だ。

「山田、あのあと『ま、伊野尾ちゃんはなにしてても基本的に可愛いけど』って言ったんだよ、知念の前で」

「、へ？」

「それでもふざけてるって思うのは伊野ちゃんの勝手だけどー」

大ちゃんはおれの隣のソファに座って上機嫌。

「……生意気な五歳児め」

「だから、小声で悪口言わないでくれる！？」

ちょっと怒ったように叫んだ大ちゃんの周りにメンバーが寄ってくる。

その間もおれの胸がずっと鳴っていること、それさえも大ちゃんにはバレてるのかな。

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