いくつもの夜を (ページ25)

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第25夜ページ25

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その日、山田はおれより先にベッドから抜け出した。

同じ仕事なんだから起こしてくれたっていいのに、なんて愚痴を零しなががら起き上がったときは、ベッドの中にまだ体温が残っていた。

なら、今から行けば山田に追い付くかもしれない。

そんな考えを胸に、早く出てきたのが間違いだったのかもしれない。

テレビ局の楽屋に着いたときに、ちょうど聞こえてきたその言葉。

「伊野ちゃんとそういうことするの、やめてって言ったよね」

「だから、知念には関係ないってば」

山田と知念の言い争い。

こんなんじゃ早く来ても、楽屋に入れやしない。

ため息をつくおれをよそに、二人の言い争いは続いていた。

「大体さぁ、なんで知念が口出すの」

「だって、伊野ちゃんは大貴が傷付いてもいいって言ったんだよ」

「……それは、伊野尾ちゃんにもいろいろあるのかもしれないでしょ」

まさか、山田がおれの味方してくれるなんて思わなかった。

「でも、涼介ならそんなこと言わないじゃん」

「そ、れは……」

「僕、涼介が好きだよ。だから、伊野ちゃんと涼介のこと、黙って見てなんかいられない。そういうことするなら、僕にしてよ。付き合おう、涼介」

なんだか少し淫らな発言だったけれど、その声には涙が滲んでいた。

山田がどう答えるのか、おれにもわかっていた。

「……わかった。伊野ちゃんとは、やめる。付き合おう」

メンバーである前に幼馴染みである知念を泣かせるような山田じゃないし、そんな山田は山田じゃない。

涙を説得に使うのは、ずるい。

だって、山田は涙を無視しない。

「……ありがとう、嬉しい」

「ん、俺ちょっと伊野尾ちゃんに電話してくるね」

そんな言葉と足音が聞こえて、おれは慌てて廊下の角に隠れる。もちろん、スマホの電源は切った。

楽屋の扉を開けて出てきた山田はスマホを取り出す。が、そのまま硬直。

その眼差しを画面に落とし、小さなため息をついてからまた楽屋に入っていった。

「電話、繋がんなかった」

「そうなの？」

「ん、後で直接話すね」

「うん」

このことは直接話したいから電話をしなかったってこと？

ただでさえ胸がズキズキするような喪失感に襲われているのに、そんなことをされても困るのに。

「ちゃんと話してね？」

「ん、もちろん」

……もう、覚悟を決めるしかないらしい。

おれは今日、始まったばかりの恋に終止符を打つのかもしれない。

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