第22夜 ページ22
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「入っても、いい?」
おれの後ろにいる山田を見つめて、知念はそう言った。
「いいけど、」
なんで断らないんだよ、なんて汚い言葉が頭をよぎったけど、飲み込む。
だって、山田だし。
知念を帰らせることなんてしないだろうし。
「……おれ、帰るから。ごゆっくりどうぞ」
おれを心配そうに見つめる大ちゃんの瞳と目があって、大丈夫だよ、と笑い返した。
大ちゃんに心配されるなんて、おれは相当ひどい顔をしてるんだろうな。
山田たちの近くからできるだけ早く遠ざかりたい一心で歩く。
これで、知念が山田と大ちゃんにさっきあったことを説明して。
山田と大ちゃんがおれを軽蔑して。
そうなったらおれ、どうしよう。
「……っ、?」
「伊野尾ちゃん、呼んだんだけど、聞こえなかった?」
少し息切れ気味の山田が、おれの肩をつかんで、おれを無理矢理振り向かせた。
「……なんで、来たの?」
「知念来たのに、伊野尾ちゃん帰っちゃったじゃん。せっかくだし、仲直りした方がいいと思って」
平然と言い放つ山田に、なんだか呆れたような、怒りのような、どうしようもなく処理できない感情が生まれる。
厄介なのは、おれがその名前を知っていること。
「……山田、バカかよ……」
仲直りどうこうのものじゃないんだって。
人の色恋沙汰なんて、謝って済むものじゃないよ?
そんな簡単なこともわかんないなんて、もう、おれはどうしたらいいの。
そんな山田が、今はなによりも愛おしいなんて、おれも大概バカじゃないの。
「伊野尾ちゃん、なんで泣いてんの!?」
「泣いて、ない……っ」
「明日、目腫れちゃうよ? メイクさんに怒られちゃうよ?」
ぽんぽんとあやすように、自分より高い位置にあるおれの頭を撫でる山田。
「……じゃあ、やまだが泣き止ませてよ」
たった今、自覚する。
おれは山田のことが、好きなのかもしれない。
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作者名:鎖空 | 作成日時:2017年3月21日 13時