検索窓
今日:4 hit、昨日:30 hit、合計:396,520 hit

第22夜 ページ22




「入っても、いい?」



おれの後ろにいる山田を見つめて、知念はそう言った。



「いいけど、」



なんで断らないんだよ、なんて汚い言葉が頭をよぎったけど、飲み込む。

だって、山田だし。
知念を帰らせることなんてしないだろうし。



「……おれ、帰るから。ごゆっくりどうぞ」



おれを心配そうに見つめる大ちゃんの瞳と目があって、大丈夫だよ、と笑い返した。

大ちゃんに心配されるなんて、おれは相当ひどい顔をしてるんだろうな。







山田たちの近くからできるだけ早く遠ざかりたい一心で歩く。




これで、知念が山田と大ちゃんにさっきあったことを説明して。
山田と大ちゃんがおれを軽蔑して。


そうなったらおれ、どうしよう。




「……っ、?」


「伊野尾ちゃん、呼んだんだけど、聞こえなかった?」



少し息切れ気味の山田が、おれの肩をつかんで、おれを無理矢理振り向かせた。



「……なんで、来たの?」


「知念来たのに、伊野尾ちゃん帰っちゃったじゃん。せっかくだし、仲直りした方がいいと思って」


平然と言い放つ山田に、なんだか呆れたような、怒りのような、どうしようもなく処理できない感情が生まれる。


厄介なのは、おれがその名前を知っていること。



「……山田、バカかよ……」



仲直りどうこうのものじゃないんだって。
人の色恋沙汰なんて、謝って済むものじゃないよ?


そんな簡単なこともわかんないなんて、もう、おれはどうしたらいいの。



そんな山田が、今はなによりも愛おしいなんて、おれも大概バカじゃないの。



「伊野尾ちゃん、なんで泣いてんの!?」


「泣いて、ない……っ」


「明日、目腫れちゃうよ? メイクさんに怒られちゃうよ?」


ぽんぽんとあやすように、自分より高い位置にあるおれの頭を撫でる山田。



「……じゃあ、やまだが泣き止ませてよ」








たった今、自覚する。




おれは山田のことが、好きなのかもしれない。






第23夜→←第21夜



目次へ作品を作る
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (468 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
1064人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:鎖空 | 作成日時:2017年3月21日 13時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。