いくつもの夜を (ページ20)

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第20夜ページ20

ym side

「ほっぺ、痛い？」

お風呂に入って俺が貸した服をゆるく着こなした伊野尾ちゃんは、小さく首を振った。

伊野尾ちゃんの頬は少し腫れているぐらいだから、そんなに痛くないのかもしれない。

「これ、使って」

タオルに巻いた保冷剤を頬に当ててあげると、小さく肩が揺れた。

なんだ、やっぱり痛いんじゃん。

「……ごめん、急に来ちゃって。迷惑だね」

そう伏し目がちに言う伊野尾ちゃんの瞳は悲しげで、なんだかこっちまで切なくなる。

「別にいいけど。それより、なんかあったの？もしかして、知念？」

さっきから見たら、スマホに知念からの着信があった。
出なかったから用件はわからないけど、伊野尾ちゃんのことのような気がしている。

「……やまだ、エスパーなの？」

「違うけど。……で、知念と喧嘩でもした？」

「……やっぱりエスパー？」

「違うって」

ふざけないでよ。そう言うと伊野尾ちゃんは、いつものようにへらへらと笑った。

「……おれがやったのね、大ちゃんとだよ」

「……は？」

突然の話題転換に戸惑って首をかしげると、くすくすと伊野尾ちゃんが笑った。

「これ、つけたのも大ちゃん」

伊野尾ちゃんの細い指が服の首もとをはだけさせて、出てきたそれ。
真っ白な肌に薄く色付く、なまめかしいキスマーク。

「大ちゃん、だったの？」

「大ちゃんだったの」

知念との喧嘩と、伊野尾ちゃんが大ちゃんとやったこと。なにが関係あるんだろう？

その印を指で撫でながら伊野尾ちゃんは口を開いた。

「大ちゃんのこと、軽々しく受け入れちゃいけなかったんだよね。……知念は、大ちゃんを傷つけてまでおれと山田が一緒にいるのにも、反対してるんだよ」

「……うん」

知念が反対だってことは知ってたけど、まさか大ちゃんも関わってくるとは思わなかったな。

そんなことを考えていると、伊野尾ちゃんと目が合った。