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「ご、御冗談はやめて下さい‼私は頭が悪いですから、勘違いしてしまいます」


髪に付けられた櫛を取ろうとする手を煉獄はそっと掴んだ。


「よもや、君の為に買ったんだ。そのまま付けていてくれ」


それに、勘違いされている方が俺は嬉しい。と付け足した。嫌でもその意味が分かってしまったAの目に一筋の涙が溢れる。それを引き金に、傘に溜まった雨水が滴るようにぼろぽろと泣き出してしまった。


「…こんな感情、知りたくなかった‼」


その言葉を吐いて彼女は何処かに走り去ってしまった。反射的に手を伸ばしたが、その手は弾かれてしまう。
次第に人混みに飲み込まれ、後ろ姿はみるみるうちに小さくなっていく。煉獄がいくら手を伸ばしてももう届かない場所にAは消えてしまった。


寂しそうに眼を伏せる煉獄。もどかしい二人を見ていた飾り櫛の店主は煉獄に声を掛けた。

「さっさと追い掛けな、あんちゃん。泣いた女を黙って抱き締めるのが男ってもんよ」

「しかし…俺は今し方Aに振られてしまった」

「ばっかやろう。櫛付けてもらった時のねぇちゃんの顔見てたか?あんなに嬉しそうに目ぇ見開いてたんだぞ。今頃あんちゃんに追っかけて貰うのを待ってるだろうよ。ごろつきに声掛けらんないうちに早く連れ帰んな」


背中を押された煉獄は、放たれた矢の如く喧騒の中を走った。肩がぶつかった人に、すまん‼ と謝りながらひたすら前に進む。Aは何処に行ったのだろう。探せ、探すんだ。
ふと、ポケットの中に入っていた何かが空気に揺れて音を成した。


少し遅い青春の真っ只中に居る二人を見た飾り櫛の店主は頬杖をつきながら笑っていた。若いねぇ、と羨ましそうに見つめながら。





ーーーー
「お姉さん、其処で何やってるの?」


走って来た道を徐ろに振り返るAの肩を、見知らぬ男が触った。その感触に邪険に眉を寄せる。


「…何でもないです。さようなら」


巾着を握り締めた。気持ち悪い、という感情が頭の中を埋め尽くしている。Aは、肩を触る手を落とすようにすたすたとまた歩き出す。


「そんなに急がなくても良いじゃん。少しだけ時間頂戴?あ、困った顔も可愛いなぁ」


路地裏に腕を引っ張られる。息を切らしていたAは男の強い力に抵抗が及ばず、そのまま引き摺り込まれてしまった。

下卑た笑みを浮かべられながら着物に手を掛けられ、その恐怖に思わず目を閉じる。Aは、あの人の名前を呼びたくて堪らなかった。

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橘欅(プロフ) - ネコ2世さん» コメントありがとうございます!幸せな気持ちになっていただけるなんて…光栄です!どうかこの作品をご贔屓に! (2019年11月13日 16時) (レス) id: 4f6b87549d (このIDを非表示/違反報告)
ネコ2世 - 主人公が可愛らしくて好きです!煉獄さんとのやり取りが微笑ましくて読んでる側もすごく幸せな気持ちになります! (2019年11月12日 16時) (レス) id: 6d89e33ad2 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:橘欅 | 作成日時:2019年11月10日 22時

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