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甘味処を出て街をぶらりと練り歩く二人。他愛も無い会話をしながら出店の数々を覗いていた。

簪や櫛など、女を飾る装飾品の数々が並ぶ店で、ふと煉獄がその足を止める。


「綺麗ですね、どれもこれも」

「うむ‼これを贈りたい人が居るんだが…選ぶのを手伝ってくれるか?」

「えぇ、良いですよ」


一瞬、驚いたような目をしたAだったが、その後直ぐに微笑んだ。


煉獄だってもう20だ。許嫁だって居るはずだろう。その人への贈り物を選ばせてもらえるなんて…光栄だ。


「婚約者の方に贈り物なんて素敵じゃないですか。簪をあげたらきっと喜びますよ」


簪には特別な意味がありますからね。と、何かを言いたげに口を開いたままの煉獄に言う。


簪や櫛を女性に贈る意味はきっと彼でも分かるはず。現代でいうところのプロポーズだ。


簪は武器にもなるし、そのまま身に付けても可憐になる。“お前を護る”と“一生お前と添い遂げたい”という二重の意味があるのだ。

かという櫛はというと、櫛のくは“苦” しは“死”。江戸時代の洒落っ気が含まれている贈り物だ。

“結婚生活は幸せも多いが苦労も多い。死ぬまで共に寄り添って生きていこう”という想いが込められている。


特に、“本つげ”という櫛は長年使い続ける毎にその色に深みが増し、美しい飴色に変わっていくそう。夫婦のカタチが様々なように、月日が経つごとに色が変わるのだ。


「あ、これなんか如何でしょう」


Aは桜の花の形をした細工の飾り櫛を手に取った。薄桃色で可愛らしい。きっと煉獄さんの許嫁の人はこんな感じの可愛らしい人なんだろう と想像して選んでみた。


煉獄も腕を組んで ふむ と唸った。きっと今その人の事を考えてるに違いない。


「Aが選んでくれたんだ‼これを買うとしよう‼」


飾り櫛を片手に店の主人に声を掛けに行った。Aは複雑な気持ちで彼を待っている。


(馬鹿ね、私ったら。逢い引きだって勝手に勘違いして良い気になっちゃって…。そりゃそうよ、煉獄さん程の良い人を放っておく人なんて居ないわ…)


これが失恋なのか、と空っぽに笑う。涙は出て来なかった。はなっから両想いになる事を望んでいなかったから、その分被弾するものも少ない。


煉獄が笑顔で戻って来た。おかえりなさい、と言おうとした刹那、彼がAの頭に手を伸ばす。思わず彼女は目を閉じた。

「うむ‼やはりよく似合っていて綺麗だ‼」

目を開けると、頭には飾り櫛が付いていた。

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橘欅(プロフ) - ネコ2世さん» コメントありがとうございます!幸せな気持ちになっていただけるなんて…光栄です!どうかこの作品をご贔屓に! (2019年11月13日 16時) (レス) id: 4f6b87549d (このIDを非表示/違反報告)
ネコ2世 - 主人公が可愛らしくて好きです!煉獄さんとのやり取りが微笑ましくて読んでる側もすごく幸せな気持ちになります! (2019年11月12日 16時) (レス) id: 6d89e33ad2 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:橘欅 | 作成日時:2019年11月10日 22時

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