365日 (ページ9)

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扉① ページ9

先週の金曜日の、定時から1時間ほど過ぎた頃
Aはデスクで、PCの画面をぼーっと見ていた。

「A。」

珍しく、呼びかけても反応がない。
画面の向こう側を見ているようで、小さくため息もつく。

「A、大丈夫か？」

ポンと肩に手を乗せると
油断をしていたのか、びくっと身体が跳ねた。

「な、中堂さん…！
すみません、何かありましたか？」

余程驚いたのか、心臓の辺りに手を当てている。

「いや、もう行かなくて良いのか？
店の時間だろう？」

時計を指差すと、彼女の視線も時計へ向いた。

『あ…。
でも、この資料をまとめないと…。』

そう言うと、手元の資料に目線を移す。

「それは急ぎではないから、今日でなくて良いぞ。」

『そうでしたね…では行ってきます！
お先に失礼します。』

意を決したように言うと、PCの電源を落とし
軽くデスクの上を片付けると
ぺこっと頭を下げて、オフィスを出て行った。

いつもと違う様子に、少し違和感を覚えながらも
Aがエレベーターに乗るまで、オフィスから見守った。

木曜日の今日、ひとりで残っていたが
夜も更けてきて、空腹を覚えたのでUDIを出る。

パーカーを羽織るだけで十分で
あんなに寒かった日々が、すっかり過ぎ去った事を実感する。

何も考えなくても、足は店まで動き
すっかり通い慣れたもんだと、心の中で独りごちながら
カランカランと鈴の音を鳴らすドアを開けた。

「いらっしゃいませ！」

店長の元気な声が飛んでくる。

会いに行った人ではなかったので
一瞬、ドアの前で固まってしまったが
裏にでも居るのだろうと思い、いつものカウンターの席へ座る。

「また来てくれたのね。
いつもありがとう。」

店長は、にこにこしながら水を出してくれた。

「Aさんは今買い出しに行ってもらってて
すぐ帰ってくると思うから、少し待っててね。」

相変わらず気の回る人で
俺が聞こうと思っていた事を、先に教えてくれた。

「すみません。」

水を一口飲み、店内を見回すと
客は他に2組いるようだった。