365日 (ページ29)

今日:4 hit、昨日:22 hit、合計:84,442 hit

a long progression of rainy days⑤ ページ29

部屋に着くと、系さんの部屋着を出し、手渡す。
早速シャツのボタンを外しはじめたので
自身も部屋着を取って、洗面所へと向かった。

着替えて戻ると、系さんから脱いだシャツを受け取り
洗濯籠へ入れ、台所でお湯を沸かす。

『そうだ、系さん。何か召し上がりますか？
うどんならすぐできますよ。』

インスタントのコーヒーを淹れながら訪ねると
クッションに座る系さんと目が合う。

「いや、大丈夫だ。

それよりもA。」

系さんが、自身の隣の床をポンポンと叩く。
心臓が跳ねる。

『はい。』

お盆に、マグカップと昨日焼いたクッキーを乗せ
テーブルに置くと、系さんの隣に座る。

系さんは、コーヒーを一口飲むと
私の膝を枕にして仰向けに横になった。
自然と、系さんの髪を撫でるようにゆっくりかきまぜる。

「なかなか手がかりがないな。」

額に拳を当て、ふーと大きく息を吐く。

『…系さん。』

前髪と拳の間から、こちらを真っ直ぐ見つめる目と目が合う。

『差し出がましいと思うので、独り言だと思って聞いて頂きたいのですが…』

「どうした？」

系さんは手を下ろす。

『お気付きだったかもしれないのですが
今日、三澄さんが付いてきていました。』

系さんは目を見開いた。

『あの…系さんが嫌でなければ
三澄さんや東海林さんにも話してみるというのはいかがでしょうか。』

系さんは何も言わず、私の目を見つめたままだ。
私もそらさず、話を続ける。

『複数の別々の視点から捉えたら
また何か新しい事が見えてくるかもしれません。

どの道、三澄さんはもう
何かを感じとっていらっしゃると思いますし…』

系さんは、少し考える表情になった。
やはり余計な事だったかもしれない。

『私が言うことではないですよね。
偉そうにすみません…』

申し訳なくなり、目をそらす。

「いや…そうだな。
検討する。」

系さんは優しく微笑むと、私の頬に触れ
再び視線が交わる。

系さんはそのまま、少し身体を起こし
私はゆっくりとかがみ
自然と唇が合わさった。

今度は私が床に手をつく体勢になり
系さんが耳元で小さくつぶやく。

「今夜は、UDIにも家にも居たくなかった。」

彼は、ひとつひとつ、でも一刻を惜しむかのように
私を介して、五感で感じることのできる
あらゆる事から、生を確認しているようだ。

私は彼に全てを委ねる。

自分の生を、彼によって感じながら
何度も彼の名前を呼んだ。