好きな人 ページ24
『それより中堂さん、今日はすみません。
私が至らないばかりに、ご迷惑をおかけしてしまって。』
「ん?何かしたか?」
『手元がおろそかになったり、動きが悪かったり…』
「ああ…?そうだったか?
そうだとしても、どれも自損事故みたいなもんだろ。
そんな事よりA、さっき足を打っていたな。
見せてみろ。」
系さんはそう言い、私のスカートの裾に手をかけた。
慌てて系さんの手を押さえるが、力で叶うわけがなく
逆に手を取られてしまう。
『だ、大丈夫です!
ちょっとぶつけただけですし。
それにこんな所で…』
「こんな所でなければいいのか?」
『そ、そう言う事では…
もう痛くないですし…。』
「嘘をつけ。
しばらく引きずっていただろう。」
系さんがぐっと顔を近づけるので、思わず目をそらす。
手を取られているため逃げられない。
熱くなった耳をじっと見られているようで
もういたたまれない気持ちだ。
「今夜じっくり診てやるから、覚悟しておけ。」
そう言うと、すっと私の腿を撫で、口の端をあげる。
あまりの事に、思わず息が止まった。
系さんは、そんな私を見て満足そうに笑うと
私の手を取ったまま座り直し
横に置いてあったビニール袋からおにぎりを出して
そのまま手に持たせてくれた。
「ほら、飯まだだろ。
食わないと持たないぞ。」
『ありがとうございます。
もしかして、買ってきてくださったのですか?』
「自分の分を買うついでだ。」
系さんは、少し照れくさそうに目をそらすと
もうひとつおにぎりを出し、封を開け、嚙る。
『ありがとうございます。
あ、お金…』
「いつも弁当を作ってもらっているんだ
それくらい気にしないで奢られておけ。」
ふっと笑い、私の頭をくしゃっと撫でた。
系さんを見上げ、私も笑顔で応える。
ぶっきらぼうな優しさが胸にしみて、涙が出そうになった。
『いただきます。』
a long progression of rainy days、←好きな人
279人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:unfertig | 作成日時:2018年4月19日 20時