365日 (ページ13)

今日:13 hit、昨日:6 hit、合計:84,457 hit

扉⑤ ページ13

「お前のせいじゃない。
あのクソ野郎がおかしいんだ。気にするな。
それよりも、身体は大丈夫か？」

『はい。系さんのおかげで。』

そう言いつつ、心配をかけたくなかったと落ち込む彼女を
微笑みながら、今度は強く抱きしめる。

「お前を助けられて良かった。」

『ありがとう…ございます…。』

耳元で彼女が、少し掠れた声で囁く。

今度は別の感情が湧いてきて、堪えきれずに身体を離すと
彼女の顎に手を添え、そっと上げる。

すがる様な目に、さらに掻き立てられながらも
抵抗がないことを確認すると、口づける。

『ん…っ…』

彼女から声が漏れると、たまらず
口づけはさらに深くなった。

唇を離すと、息の上がった彼女を見て、にやりとする。

「上書きできたか。」

『な、仲山さんにはまだ何も…！

でも…おかげ様で…全部飛びました…。』

恥ずかしそうに、顔を真っ赤にする彼女が愛おしくて
今度は軽いキスする。
目を丸くした彼女の身体を、抱きしめるように支え
立ち上がらせた。

「今日はもう帰るか？」

『いえ…デザートの仕込みが途中なので
終わらせてから伺ってもいいですか？』

「今日くらいはいいだろう？」

『明日来てくださるお客様がいるので…。
すみません…。』

Aは申し訳なさそうに言うが、予想通りでこいつらしい。
あんな事があったのに、周りの事を考えている。

しょうがないやつだと、表情を緩ませながら
Aの髪をくしゃっと撫でる。

「俺も手伝う。」

『えっ？いいのですか？』

「分量測るくらいなら、俺でもできるだろ。」

『ありがとうございます。
すごく助かります。』

お菓子作りは、分量を測るのが
一番面倒で大事なんですよねと
嬉しそうに言うAを見ると、つられて口の端が上がる。

カウンターに入り、並んでキッチンに立つと
悪くないななんて思いながら
甘い匂いが立ち込める店内で
泡立て器を握る彼女の横顔と
俺に向けられる笑顔に、酔いしれる。