365日 (ページ12)

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扉④ ページ12

「その汚い手を離せ。」

男の後ろから、力を込めて男の両腕を掴み
いつもより低い声で言うと、男はAから手を離し
勢いよく振り返った。

「誰だ！？痛いじゃないか！」

男は俺の顔見ると、思い出したようで
はっとした顔の後、狼狽した。

「お前は…！もしかして…この間の…！？」

男の腕を掴む手に、更に力を込める。

「貴様、俺の女に気安く触りやがって。
どうなるか分かっているのだろうな？」

男は、必死に俺の手を振りほどくと
つまずきながらも出口へと向かうが
途中で椅子にぶつかり、倒れる。

そんな男の方へ向き直り
見下ろすような格好で言い捨てる。

「自然死のように偽装して、解剖される前に火葬してやる。」

顔に恐怖を浮かべた男は、後ずさりし
情けない声を出しながら、開け放たれたドアから
逃げて行った。

後を追おうとすると
くんとズボンの裾を引っ張られたので、振り返ると
座り込んだ彼女が、震える手で掴んでいた。

一気に気持ちが冷静になり、大きく息を吐くと
しゃがんで彼女を手を握る。

「大丈夫か？」

出来るだけ優しい声で、覗き込むように聞くと
彼女はこくんと頷いた。

「A、抱きしめてもいいか？」

小さくこくんと頷く。
包み込むように、そっと抱きしめると
彼女は、俺の背中に手を回し、服をぎゅっと握った。

しばらくそのまま抱きしめながら
彼女の髪を優しく撫でていると、震えが治まってきた頃に
ゆっくりと身体を離し、俺を見上げる。

『系さん、ありがとうございます。
そして…ごめんなさい。

気を付けているつもりではいたのですが
足りなかったみたいです…。』

どうやら男は、閉店後に忘れ物をしたとやってきて
テーブルの下を探させている時に襲ってきたようだ。