【募集企画】大聖堂の地下階層【本編】

夢を見る【セオドア・トラウト】 ページ44

「ぱぱ、ぱぱ！」

「おきておきて！」


幼子の甲高い声で目が覚めた。寝起きのぼんやりとした視界に映るのは晴れ渡った青い空、それから頭に小さな角をはやした愛らしい顔がふたつ。
オレは眠い目をこすりながら起き上がった。原っぱに敷かれたレジャーシートの上で、双子の兄弟がきゃいきゃいはしゃいでいる。


「なんだよ、そんなに騒いで。なんか面白いものでも見つけたのか？」

「だって、ぱぱずっとねてたもん」

「ぴくにっくなのに、ぱぱもままもあそんでくれなくてつまんない！」


熟れた果実のように柔らかく赤い頬を膨らませ、兄弟は不満を述べている。そんな二人をラクーナがなだめる。


「こんなに暖かい日だもの、お昼寝したくなるのも仕方ないよ。ふたりもママたちと一緒にお昼寝する？」

「「やだ！」」


遊びたい盛りの双子は、先ほどまでつかんでいたオレの手を離すとすぐにどこかへ駆け出して行った。昼寝よりも駆け回ることのほうが彼らには重要なことなのだ。


「……いい天気だな」

「本当に素敵な日。ずっとこんな日だといいのにね」


風が吹き、ラクーナの髪が靡いた。月光を紡いだような青白く輝くその髪は、ラクーナの細い輪郭や整った顔立ちを引き立てる。彼女の瞳は月の輝きから星々が逃げ込んできたのかと思うほどにキラキラと輝くマーマレード色で、初めて見てからずっとオレを魅了してやまない。
もう出会って何年にもなるが、彼女のことを見飽きたことなど一度もない。


「どうしたの？そんなにぼーっとして」

「……クーナは相変わらず美人だな」

「もう、セオったら！」


ラクーナの白磁の肌に朱が差した。照れてはいるが、まんざらではないといった様子だ。


「私はあなたよりずっと年上なのに」

「数年程度誤差の範疇だ。惚れちまったんだからしょうがないだろ」


遠くからは子供たちの声が聞こえてくる。ちっぽけな影にしか見えない彼らを目で追っていると、視界にラクーナの顔が割り込んできた。
彼女の顔が次第に近づき、もうすぐ体が触れ合うーーと思った瞬間目が覚めた。

消灯時間をとうに過ぎた拘置所の中は、廊下の非常灯にうすぼんやりと照らされてはいるが限りなく暗闇に近い空間だ。家の寝室のように、待っていれば家事を終えたラクーナが横にくるなんてことはない。子供たちが眠れないからと布団に潜り込んでくることもない。


「……最悪な目覚めだ」


セオドアは再び夢の中に戻ろうとした。だがどうにもうまく寝付けなかった。

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