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約束の15分前に着いたのに
紫耀は既に約束した場所に立っている。
紫「楽しみすぎて早くきちゃった。」
そう少年のように呟く彼は
私を全身じーっと眺めて、口角を上げる。
紫「A、今日いつもと違う。
いつも可愛いけど
今日はなんていうか、凄いな。
このオシャレは俺の為?俺と会うから?
やべえ、すっごい嬉しい。」
珍しく焦ってそう言う紫耀は
なんだか新鮮。
オシャレしてきてよかったなあ。
お別れはもうすぐなのに、
紫耀はどんどん私を
君の沼にはまらせる。
「紫耀、行きたいところがあるの。」
丘の上にある展望台。
そこに、行きたい。
あそこで私は
透明の重い鎖を紫耀にかけた。
' ひとりぼっちにしないで '
そんな残酷な言葉によって。
鎖をかけたのがそこなら
鎖を解くのもあの展望台がいい。
紫「行こうか。」
何故か切なそうに笑った彼は
私の手を取って歩き出す。
紫耀が私にするのは、
手を繋ぐっていうことだけで、
ハグも、キスも、それ以上も、
私にはしてこない。
紫耀はとても優しいけど
正直すぎて、どこか残酷だ。
少し歩くと、
緑に囲まれた
人気のない丘にひっそりと佇む
ベンチと二本の望遠鏡しかない展望台が見える。
あの日以来、
ここに来ようと思ったことはない。
私のやってしまったことの重大さを
自覚したくなくて。
近づくにつれ
だんだんと足が重くなる。
でも、それは紫耀も同じようで、
私の手を握ったまま
急に歩みを止めて
「懐かしいね、ここ。」
私の頭をグシャっとしながら
噛みしめるようにそう言った。
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作者名:Kipi | 作成日時:2019年1月7日 9時